追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
セザールの妊娠の時とは違い、寝込む事が多く起き上がることさえ難しいアリシアの様子に彼女を説き伏せて神殿に縋った。
結果、神託が降り彼女の死期を知ることになった。
回避できる未来。それが神託の最大の利点。
子どもを諦める。それだけでいい。
『絶対に、イ・ヤ♡』
だが、アリシアはその未来を選ばなかった。
『愛しているの』
だから、選ばないと。
愛しているといいながら、私の懇願は一切聞かず。
そうして結局はゆっくり過ごしたいからという彼女の希望で、メルティー公爵領に引きこもりリティカを産んだ。
夫の心情など考慮しないアリシアは、
『カーティス。あんまり情けない顔してると、私によく似た顔のこの子がアナタの事ぶっ飛ばしに行くわよ?』
リティカの誕生を喜べない私にそう言って笑う。
それはまた、母親に似て随分と勇ましいと小さなリティカを眺めてそんな事を思った。
『きっと。きっと、いつか。未来でね』
リティカを産んだちょうど一年後。
その日、リティカにおめでとうを言ったのはアリシアだけで。
笑って、とそう言ったアリシアは。
一欠片の未練も残さずに。
そして、嵐のような彼女は花火のように儚く命を散らした。
「それ以上逃げ続けるようでしたら、横っ面張り倒しますわよ、お父様」
アリシアと同じ澄んだ空色の目で真っ直ぐに言葉をぶつけて来たリティカは、もう守らなくてはならない小さな私のお姫様などではなく。
自分の考えをもった一人の立派な淑女で。
最愛の愛娘に目の覚めるような一撃をくらった私は、反抗期真っ盛りのリティカにアリシアからの手紙を持ち逃げされてしまった。
この状況をアリシアが見たら指をさして笑ったに違いない。
『ね、言ったでしょ』
と。
セザールと2人きりで残されて、沈黙が落ちる。
元々寡黙なセザールとはいつのまにか仕事の話以外しなくなっていた。
なんと声をかけるべきなのか。
その第一声が見つけられなかった私とは違い、盛大にため息をついたセザールは。
「父上」
私と同じ色をした目を真っ直ぐこちらに向けて。
「とりあえず、アップルパイでも食べませんか? せっかくリティカが用意したのですから」
話はそれからで、と何故か胃薬も渡されたがそれを使う事はなかった。
リティカのアップルパイは、冷めていたけれどとても美味しくて、数年越しに彼女の料理に対する本気度を知った。
「セザール。私が君の生まれた時にアリシアと選んだワインを君が成人を迎えた時に一緒に開けたいと思って自室に隠している、なんて話。君は信じるかい?」
リティカのアップルパイを食べ終わり、私はセザールに問いかける。
少し目を見開いたセザールは、
「信じますよ。でも、できたらそれを開けるのはあと2年待っていただけますか?」
そう言って尋ね返す。
「叶うなら、リティカも入れて3人で」
そう言ったセザールの顔は随分と穏やかな表情をしていて。
こんな碌でもない父親の元に生まれた彼が随分と良縁に恵まれて育ったのだと知った。
「……ありがとう」
許されたわけではないだろうし、私がした仕打ちが消えるわけでもないが。
これから先の時間を、彼らとどう向き合って過ごすのか考えていくチャンスを貰った気がした。
「さて、やんちゃな娘は今度はどこに隠れたか」
「おおよその検討はつきますが、今は放って置きましょう。リティカにも羽を伸ばす時間は必要でしょうから」
そのセリフで、2人の関係性を知る。私が目を背けている間に随分と仲良くなっていたらしい。
「そうだねぇ。明日には迎えに行こうか、2人で」
それまでに、リティカに提示できる具体策でも詰めようか。
仕事以外の話が息子とできる。その大きな変化に感謝しながら私はペンを手に取った。
結果、神託が降り彼女の死期を知ることになった。
回避できる未来。それが神託の最大の利点。
子どもを諦める。それだけでいい。
『絶対に、イ・ヤ♡』
だが、アリシアはその未来を選ばなかった。
『愛しているの』
だから、選ばないと。
愛しているといいながら、私の懇願は一切聞かず。
そうして結局はゆっくり過ごしたいからという彼女の希望で、メルティー公爵領に引きこもりリティカを産んだ。
夫の心情など考慮しないアリシアは、
『カーティス。あんまり情けない顔してると、私によく似た顔のこの子がアナタの事ぶっ飛ばしに行くわよ?』
リティカの誕生を喜べない私にそう言って笑う。
それはまた、母親に似て随分と勇ましいと小さなリティカを眺めてそんな事を思った。
『きっと。きっと、いつか。未来でね』
リティカを産んだちょうど一年後。
その日、リティカにおめでとうを言ったのはアリシアだけで。
笑って、とそう言ったアリシアは。
一欠片の未練も残さずに。
そして、嵐のような彼女は花火のように儚く命を散らした。
「それ以上逃げ続けるようでしたら、横っ面張り倒しますわよ、お父様」
アリシアと同じ澄んだ空色の目で真っ直ぐに言葉をぶつけて来たリティカは、もう守らなくてはならない小さな私のお姫様などではなく。
自分の考えをもった一人の立派な淑女で。
最愛の愛娘に目の覚めるような一撃をくらった私は、反抗期真っ盛りのリティカにアリシアからの手紙を持ち逃げされてしまった。
この状況をアリシアが見たら指をさして笑ったに違いない。
『ね、言ったでしょ』
と。
セザールと2人きりで残されて、沈黙が落ちる。
元々寡黙なセザールとはいつのまにか仕事の話以外しなくなっていた。
なんと声をかけるべきなのか。
その第一声が見つけられなかった私とは違い、盛大にため息をついたセザールは。
「父上」
私と同じ色をした目を真っ直ぐこちらに向けて。
「とりあえず、アップルパイでも食べませんか? せっかくリティカが用意したのですから」
話はそれからで、と何故か胃薬も渡されたがそれを使う事はなかった。
リティカのアップルパイは、冷めていたけれどとても美味しくて、数年越しに彼女の料理に対する本気度を知った。
「セザール。私が君の生まれた時にアリシアと選んだワインを君が成人を迎えた時に一緒に開けたいと思って自室に隠している、なんて話。君は信じるかい?」
リティカのアップルパイを食べ終わり、私はセザールに問いかける。
少し目を見開いたセザールは、
「信じますよ。でも、できたらそれを開けるのはあと2年待っていただけますか?」
そう言って尋ね返す。
「叶うなら、リティカも入れて3人で」
そう言ったセザールの顔は随分と穏やかな表情をしていて。
こんな碌でもない父親の元に生まれた彼が随分と良縁に恵まれて育ったのだと知った。
「……ありがとう」
許されたわけではないだろうし、私がした仕打ちが消えるわけでもないが。
これから先の時間を、彼らとどう向き合って過ごすのか考えていくチャンスを貰った気がした。
「さて、やんちゃな娘は今度はどこに隠れたか」
「おおよその検討はつきますが、今は放って置きましょう。リティカにも羽を伸ばす時間は必要でしょうから」
そのセリフで、2人の関係性を知る。私が目を背けている間に随分と仲良くなっていたらしい。
「そうだねぇ。明日には迎えに行こうか、2人で」
それまでに、リティカに提示できる具体策でも詰めようか。
仕事以外の話が息子とできる。その大きな変化に感謝しながら私はペンを手に取った。