追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
これ以上人目に晒されるのも、不要な中傷を聞くのも得策ではない。
何かがおかしいけれど、それが分からない以上対策を練るには情報がいる。
とりあえずこの場は撤退しようと、セドに視線で戻るわよと促すも、
「逃げるな! この女狐が」
ルシファーが私を捉えようと手を伸ばして来た。
だが、それは私に届かない。
「おい、セドリック。離しやがれ」
「申し訳ありません、執事として我が主人であるお嬢様に指一本触れさせるわけには参りませんので」
丁寧に言い返すセドだけど、全く目が笑っておらずその顔にはありありとヤルなら返り討ちにするがと書いてあった。
「ああ゛!? そもそも、なんでお前そいつの味方してんだ」
「お嬢様の執事なのですから、当然………!?」
そう言い返したセドは急にルシファーの手を弾き、私を後ろに隠してルシファーと距離を取った。
「どうしたの、セド」
「……すっげぇ、嫌な感じがした。昔、地下にいた時みたいな」
思わず言葉遣いが乱れたセドが警戒心を露わにする。
地下、とはセドが暗殺者として犯罪組織に囲われていた時の事だろうか。
何故? と私が口を開くより前に急にヒトのざわめきがピタリと止んだ。
「どうされたのですか?」
コツコツコツコツと螺旋階段から降りてくるそのヒトから発せられた声は、異様なほど存在感があり人々の視線を釘付けにする。
『助けてあげましょう』
聞き間違えるはずのないその声に、私は背筋が凍りそうになる。
「どう……して?」
あなたがここにいるの、と私は空色の目を大きくする。
こんなところで彼と出会う分岐はなかったはずなのに、と。
「……お嬢?」
訝しげなセドの声に我に返った私は、その人の前に出てスカートの裾を軽く持ち上げ淑女らしく挨拶をする。
「メルティー公爵家が長女、リティカ・メルティーと申します。このようなところで大神官であるカノン様にお会いできるなんて光栄でございます」
「ああ、あなたがあのアリシア様の」
よくお母様に似ていますね、と笑うそのヒトの吸い込まれそうなほど蠱惑的な瞳に映らないよう、私は軽く目を閉じて微笑む。
「それにしても素晴らしい成績ですね」
張り出された私の名前を目に留め、大神官はそう言葉をかける。
「大神官。彼女の成績には疑惑が」
そう言いかけたサイラスを、
「はは、誉高いこの学園の教師が買収なんてされるわけがないではないですか。彼女の実力でしょう。それとも、彼女を貶めるだけの証拠をお持ちなのですか? 公爵家を敵に回せるだけの、確固たる証拠を」
と大神官は一蹴する。
「推測だけでモノを語ってはいけません。疑いは心を曇らせる」
そう言った彼はこの場にいる全員に聞こえるように教えを説く。
「精霊様はいつでもあなた方の側で見守ってくださっています」
大神官の神秘的な雰囲気に生徒達はあっという間に飲み込まれ、彼の言葉だけが真実に変わる。
この場を制圧した彼はにこりと微笑み、
「どうぞ、悩める方は神殿に足をお運びください。我々はいつでもお待ちしていますよ」
そう言ってパチンと手を叩き騒ぎを収束させると、
「あなたは随分と敵が多いようですね。さぞご苦労がお有りの様子。私は悩める方の味方ですよ」
いつでも歓迎しますよ、と私にだけ聞こえるよう囁いて去って行った。
『憎いでしょう、全てが』
さらりと流れた銀色の髪と蠱惑的なオパールの瞳。
ゲーム内で悪役令嬢リティカ・メルティーを操作した悪魔。
大神官カノン・テレシー。
この物語を支配するのは、運営でもあなたでもない。
リティカ・メルティーよ。
私は去っていくその背中を見送りながら、ぎゅっと拳を握りしめ、心の中でつぶやいた。
何かがおかしいけれど、それが分からない以上対策を練るには情報がいる。
とりあえずこの場は撤退しようと、セドに視線で戻るわよと促すも、
「逃げるな! この女狐が」
ルシファーが私を捉えようと手を伸ばして来た。
だが、それは私に届かない。
「おい、セドリック。離しやがれ」
「申し訳ありません、執事として我が主人であるお嬢様に指一本触れさせるわけには参りませんので」
丁寧に言い返すセドだけど、全く目が笑っておらずその顔にはありありとヤルなら返り討ちにするがと書いてあった。
「ああ゛!? そもそも、なんでお前そいつの味方してんだ」
「お嬢様の執事なのですから、当然………!?」
そう言い返したセドは急にルシファーの手を弾き、私を後ろに隠してルシファーと距離を取った。
「どうしたの、セド」
「……すっげぇ、嫌な感じがした。昔、地下にいた時みたいな」
思わず言葉遣いが乱れたセドが警戒心を露わにする。
地下、とはセドが暗殺者として犯罪組織に囲われていた時の事だろうか。
何故? と私が口を開くより前に急にヒトのざわめきがピタリと止んだ。
「どうされたのですか?」
コツコツコツコツと螺旋階段から降りてくるそのヒトから発せられた声は、異様なほど存在感があり人々の視線を釘付けにする。
『助けてあげましょう』
聞き間違えるはずのないその声に、私は背筋が凍りそうになる。
「どう……して?」
あなたがここにいるの、と私は空色の目を大きくする。
こんなところで彼と出会う分岐はなかったはずなのに、と。
「……お嬢?」
訝しげなセドの声に我に返った私は、その人の前に出てスカートの裾を軽く持ち上げ淑女らしく挨拶をする。
「メルティー公爵家が長女、リティカ・メルティーと申します。このようなところで大神官であるカノン様にお会いできるなんて光栄でございます」
「ああ、あなたがあのアリシア様の」
よくお母様に似ていますね、と笑うそのヒトの吸い込まれそうなほど蠱惑的な瞳に映らないよう、私は軽く目を閉じて微笑む。
「それにしても素晴らしい成績ですね」
張り出された私の名前を目に留め、大神官はそう言葉をかける。
「大神官。彼女の成績には疑惑が」
そう言いかけたサイラスを、
「はは、誉高いこの学園の教師が買収なんてされるわけがないではないですか。彼女の実力でしょう。それとも、彼女を貶めるだけの証拠をお持ちなのですか? 公爵家を敵に回せるだけの、確固たる証拠を」
と大神官は一蹴する。
「推測だけでモノを語ってはいけません。疑いは心を曇らせる」
そう言った彼はこの場にいる全員に聞こえるように教えを説く。
「精霊様はいつでもあなた方の側で見守ってくださっています」
大神官の神秘的な雰囲気に生徒達はあっという間に飲み込まれ、彼の言葉だけが真実に変わる。
この場を制圧した彼はにこりと微笑み、
「どうぞ、悩める方は神殿に足をお運びください。我々はいつでもお待ちしていますよ」
そう言ってパチンと手を叩き騒ぎを収束させると、
「あなたは随分と敵が多いようですね。さぞご苦労がお有りの様子。私は悩める方の味方ですよ」
いつでも歓迎しますよ、と私にだけ聞こえるよう囁いて去って行った。
『憎いでしょう、全てが』
さらりと流れた銀色の髪と蠱惑的なオパールの瞳。
ゲーム内で悪役令嬢リティカ・メルティーを操作した悪魔。
大神官カノン・テレシー。
この物語を支配するのは、運営でもあなたでもない。
リティカ・メルティーよ。
私は去っていくその背中を見送りながら、ぎゅっと拳を握りしめ、心の中でつぶやいた。