追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「それにしても、どこでこんな事覚えてきたんだ?」

「……一応、これでも王太子殿下の許婚なので」

「ああ、殿下の仕事手伝ってるとか?」

 納得したような顔をした師匠に、私は苦笑気味に首を振る。

「ロア様は、私に自身のやるべき事を手伝わせてくれる方ではありませんわ。私にできるのはせいぜい、その他大勢でも処理できるレベルの書類をこっそり整理する程度です」

 謙遜ではなく、私にできるのは本当にその程度。
 それでも少しでもロア様の負担を軽くしてライラちゃんに割くための時間が作れればと、精霊祭の後からメアリー様にお願いして微力ながら手伝わせてもらっている。
 その影響があるのかないのかはわからないけれど、学内外でライラちゃんと一緒にいるロア様の目撃情報が増えてきているので、私としては今後も陰ながらお支えする地味な活動も続ける予定である。
 が、その代償として交流を深めているであろう2人の素敵スチルの回収がなかなかできてないのが結構心残りだったりする。

「ああ、推し成分足りない」

 せめて2人のデートにこっそりついて行って影からスチル回収したい。
 そして可愛い2人を遠くから愛で倒したい。
 映像記録水晶を取り出して煩悩をつぶやく私に、

「リティカ、お前日に日にストーカーと化してないか?」

「失礼なっ! ただのファンですわ!!」

 美スチルを回収したいだけです! と私は全力で抗議する。

「……ファンって、お前の婚約者だろう」

 呆れた様に尋ねる師匠に、

「ああ、学園祭が楽しみ過ぎる。特別クラスは演劇と聞いていますし、私トキメキと妄想で今からワクワクが止まりませんわぁ」

 前のめり気味に頷く私。
 最近忙しくて推し活できなかったので、公式イベントは楽しみでしかたない。

「お前の学園生活いいのか? それで」

 そんな私に殿下の追っかけで3年終わりそうだなと師匠は苦笑する。

「私ロア様だけを推しているわけではありませんけど、せっかく自由でいられるのですから陰ながらロア様をお支えし全力で応援したいと思っておりますわ」

 私は笑顔で肯定する。
 ゲームで知ってはいたが、本物のライラちゃんはとてもいい子だし、安心してロア様の隣を任せられる。
 とはいえ流石にロア様とライラちゃんに恋に落ちてもらおうと画策しているなんていえないけれど。

「……お前がいいんなら、いいんだがな」

 ポンっと私の頭に書類を乗せ、

「自分自身の事も大事にしとけ。じゃないと、誰かに優しくできない」

 いつもより真剣な目でそう言った。

「何ですか、急に」

 首を傾げる私に、

「お前は昔から精神面がやたらと大人びていて、最適だと思う結果を出すためなら自分を顧みない傾向にあるから、お前に関わりのある大人として心配してるんだ」

 師匠はとても優しい口調でそう言った。
 心配? 
 師匠が、私を?

「ふふ、変な師匠。私ほどわがままで欲望に忠実な人間もいないでしょう?」

 師匠の言葉の真意がわからず、キョトンと目を瞬かせた私はそう切り返す。

「公爵家に生まれた以上、リティカがいろんなものを背負わなくていけないのはわかっている。だが、お前はまだ15だ。急いで大人にならなくていい。だからせめて守ってくれる人間がいる間はもう少し、自分に優しくしてやれ」

 元々前世を思い出した時から、私の精神年齢は、成人オーバーで。
 だけど、物語を支配するには子どもである私にできる事は少なくて。
 物語はエンディングに向かって否応なく進んでいくから、早く大人にならなくてはと焦りすぎていたのかもしれない。

「……忠告、痛みいります」

 私が私を傷つけたら、少なくとも師匠は叱ってくれるし、エリィ様は悲しむ。
 私が大事にしたいと思う人がいるように、私のことを守りたいと思ってくれる人がいるのなら、私はその気持ちを踏み躙ってはいけないのだろう。
 少なくとも、この国を出るまでは。
 だけど、私は。

「心に止めておきますね」

 とりあえずこの書類を財務部に出してきますと言い残し、私は執務室後にする。
 私は歩きながら師匠の言葉を咀嚼する。
 
「それでも、私は……」

 何度考えても、どれだけ願っても。
 エンディングは変えられない。
 もしもこの世界にゲームのようにリセットボタンがあったとしても、私は私の大事な人を守るために、悪役令嬢であることを選ぶから。
 何度も。
 何度でも。
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