追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。

57.悪役令嬢への期待。

 おかしい。
 私はただ財務部に書類を出しに来ただけなのに。

「リティカ嬢、お力添えをー」

「あの大魔王から我々をお守りください」

 そう言って泣きながら私に縋り付くのは、この国の宰相であるアーバン侯爵と財務大臣のヴァレンティ侯爵。
 財務部に書類を出そうとしたところで私を目に止めた役人に捕まり、あれよあれよという間になぜか宰相の執務室まで連行され、現在に至る。

「「もう、いっそのこと辞職させてください」」

 えぇー何この地獄絵図。

「やぁリティカ。思ったより早かったね」

 そしてその中心で悠然とコーヒーを飲んでくつろいでいるのは見間違いようがなく、王城を混沌に落とし込んだ張本人、大魔王もといお父様。

「お父様、なぜ宰相執務室に?」

 とりあえず連行された理由は分かったので魔法省の長官を辞職したらしいお父様に素直に尋ねる。

「あはは、リティカは素直だねぇ」

「お父様相手に駆け引きなんて時間の無駄ですから」

 私の付け焼き刃の腕ではどれだけ甘くしてもらってもお父様に敵うはずもない。
 それならば私らしく直球勝負の方がずっといい。

「ほら、パパは家庭も顧みずずーっとお仕事頑張って来ただろう? ここら辺でお暇をもらっても罰は当たらないんじゃないかなーって」

 お父様はピッと一枚の封筒を私に見せる。それは私が今朝渡したお母様からの手紙。
 すぐ全部読んでしまったら、手紙がなくなった時反動でお父様が殻に籠ってしまいそうなので、時期を見て一枚ずつ渡しているのだけれど。

「私は改めて思ったんだ。魔術師の家に生まれたからといって、魔術師である必要はなく、国の政策を支える方が向いているんじゃないかな、って」

「……なるほど?」

 お母様のお手紙に何が書いてあったのかはわからないけれど、即行動に移すくらい感銘を受けたらしいことだけは理解できた。

「とはいえ、10年以上も政務の現場から離れているからね。だから私は微力ながら宰相の補佐でもしつつ、財務部の負担を軽減したいなって」

 ほう、なるほど。
 お父様の主張は一見しおらしく、謙虚に聞こえるけれど。

「私にはできません。いつでも公爵に宰相職を譲りますので、今すぐ暇をください」

 こんな上方修正絶対無理ですと泣き叫ぶ宰相と、

「こんな大幅な予算削減、一体どうやって達成しろと?」

 今にも胃に穴でも空きそうなくらい真っ青な顔をしている財務大臣。

「いやぁ、たまにはいいねぇ。2番目か3番目の気楽な立場で好き勝手上司を振り回すなんて」

 楽しいねぇと心底愉快そうに口角を上げて、ハイやり直しとにこやかに書類を机に放り投げるお父様。

「いやぁー有能な部下を持てて良かったね? 上半期決算まであと半月もあるじゃない」

「「こんな部下いてたまるかぁーーー!!」」

 自称押しかけ部下からの上司への容赦ない要求。
 さすが悪役令嬢のお父様。どう見ても悪役にしか見えない。

「お父様。大事な事なので訂正しておきますが、お父様は何番目でいらしても好き勝手にしかされてませんよ?」

 あんまり困らせてはダメですよ? とため息をついた私は2人にそっと効果の強めの胃薬を渡す。

「胃薬より公爵をどうにかして欲しいです。そしてあわよくば宰相にお戻りいただきたい」

 それを受け取りつつアーバン侯爵はキッパリそういった。
 が、無茶を言わないでいただきたい。
 こんな生き生きしているお父様、私なんかに止められるわけがないじゃないか。
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