追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
私がクロエと出会ったのは4年前、ヴァレンティ侯爵がたった2年で私が提示した慰謝料を稼ぎ切った時の事だった。
「正直、こんなに早く用意できるとは思っていなかったので驚きました」
「リティカ嬢が言ったのでしょう。私は投資が得意だ、と」
いつまでも幼い令嬢に守られているようでは爵位を返上せねばなりませんと笑ったヴァレンティ侯爵は、
「首輪を外して頂いても?」
と私に申し出た。
元々彼に狗になれと命じたのはお父様のお怒りが薄れるまでの時間稼ぎで、私としては慰謝料として師匠ルートを潰すための資金が稼げて、夫人を王都から追放できればそれでよかった。
だというのにヴァレンティ侯爵はこの2年で私が個人的に自由にできるお金と共にお金の流れと稼ぎ方の教授してくれたのだ。
「十分よ」
その2つが満たされた今、私にヴァレンティ侯爵を引き止める理由はなく、すぐさま私は侯爵の申し出を了承した。
「ありがとうございます」
深く私に頭を下げたヴァレンティ侯爵は腰を落として視線を私に合わせると、
「では改めて。ヴァレンティ侯爵家はリティカ・メルティー公爵令嬢を支持することといたします」
凛とした声でそう宣言した。
「……何を言って」
驚いて聞き返す私に、
「貴女もその振る舞いで、振るいにかけているのでしょう? 自分にとって使える人間であるか否か」
綺麗に騙されましたよと苦笑する。
「リティカ嬢、貴女は聡明だ。でも、この国で渡り歩くにはまだ危うい」
ヴァレンティ侯爵は私をそう評価する。
「だからこそ、私は貴女に投資したいと思います」
未来の王妃に、と私に傅く侯爵に私はクスッと笑って、
「あなたの思う通りには事が運ぶとは限りませんよ?」
何せ私は王妃どころかロア様から婚約を解消されてこの国から追放される事を目指しているのだ。
投資されたところで回収できる見込みのない不良債権。
ありがたい申し出ではあるけれど、未来が決まっている分このまま受けるのは騙すようで忍びない。
「はは、それも先物取引の醍醐味でしょう」
そう言って彼が私の前に連れて来たのは銀髪碧眼の女の子だった。
面差しが侯爵夫人に似ている。
「娘のクロエです。私自身が動くわけにはいきませんので」
自由な手足は必要でしょう? と侯爵は笑う。
「そう、あなたが」
私に体罰を与えたあの夫人の自慢の娘で、侯爵が全てを捨ててでも守りたいと懇願した女の子。
そして、ロア様の婚約者候補だった子。
「あなた自身はどう思っているの?」
「メルティー公爵令嬢の仰せのままに」
私の問いに、クロエはきれいなカーテシーとともにそう答えた。
「不合格。私に足手まといは必要ない。私が欲しいのは、自分で考えることができ、私の提示する条件が飲める子よ」
そう返す私を前に、クロエは表情ひとつ変えなかった。
うーん、投資。
投資、ねぇ。
その言葉を口内でつぶやいた私はほんのしばらく思案して。
「と言うわけだから、様子見とさせて頂きます」
侯爵とクロエにそう宣言した私は、
「ヴァレンティ侯爵、クロエを私に預けてくださる? 私も投資してみようと思います」
と彼女の手を取りそう尋ねる。
「リティカ嬢、クロエは貴女の思う通りに育たないかもしれませんよ?」
そう返事をする侯爵に、
「あら、それが先物取引の醍醐味なのでしょう?」
私は笑って返事をする。
「……貴女には敵いませんね」
娘をよろしくお願いしますと言って頭を下げる侯爵に頷くと、
「ふふ、じゃあ"貸し"一つって事で」
この2年ですっかり気心の知れた侯爵に悪戯っぽく笑った私は、
「じゃあクロエ、新しい生活をはじめましょうか?」
クロエ・ヴァレンティは、領地で長期療養中の母親と暮らしている。
そんな体で身を潜めている彼女を、私は密かに引き取った。
「正直、こんなに早く用意できるとは思っていなかったので驚きました」
「リティカ嬢が言ったのでしょう。私は投資が得意だ、と」
いつまでも幼い令嬢に守られているようでは爵位を返上せねばなりませんと笑ったヴァレンティ侯爵は、
「首輪を外して頂いても?」
と私に申し出た。
元々彼に狗になれと命じたのはお父様のお怒りが薄れるまでの時間稼ぎで、私としては慰謝料として師匠ルートを潰すための資金が稼げて、夫人を王都から追放できればそれでよかった。
だというのにヴァレンティ侯爵はこの2年で私が個人的に自由にできるお金と共にお金の流れと稼ぎ方の教授してくれたのだ。
「十分よ」
その2つが満たされた今、私にヴァレンティ侯爵を引き止める理由はなく、すぐさま私は侯爵の申し出を了承した。
「ありがとうございます」
深く私に頭を下げたヴァレンティ侯爵は腰を落として視線を私に合わせると、
「では改めて。ヴァレンティ侯爵家はリティカ・メルティー公爵令嬢を支持することといたします」
凛とした声でそう宣言した。
「……何を言って」
驚いて聞き返す私に、
「貴女もその振る舞いで、振るいにかけているのでしょう? 自分にとって使える人間であるか否か」
綺麗に騙されましたよと苦笑する。
「リティカ嬢、貴女は聡明だ。でも、この国で渡り歩くにはまだ危うい」
ヴァレンティ侯爵は私をそう評価する。
「だからこそ、私は貴女に投資したいと思います」
未来の王妃に、と私に傅く侯爵に私はクスッと笑って、
「あなたの思う通りには事が運ぶとは限りませんよ?」
何せ私は王妃どころかロア様から婚約を解消されてこの国から追放される事を目指しているのだ。
投資されたところで回収できる見込みのない不良債権。
ありがたい申し出ではあるけれど、未来が決まっている分このまま受けるのは騙すようで忍びない。
「はは、それも先物取引の醍醐味でしょう」
そう言って彼が私の前に連れて来たのは銀髪碧眼の女の子だった。
面差しが侯爵夫人に似ている。
「娘のクロエです。私自身が動くわけにはいきませんので」
自由な手足は必要でしょう? と侯爵は笑う。
「そう、あなたが」
私に体罰を与えたあの夫人の自慢の娘で、侯爵が全てを捨ててでも守りたいと懇願した女の子。
そして、ロア様の婚約者候補だった子。
「あなた自身はどう思っているの?」
「メルティー公爵令嬢の仰せのままに」
私の問いに、クロエはきれいなカーテシーとともにそう答えた。
「不合格。私に足手まといは必要ない。私が欲しいのは、自分で考えることができ、私の提示する条件が飲める子よ」
そう返す私を前に、クロエは表情ひとつ変えなかった。
うーん、投資。
投資、ねぇ。
その言葉を口内でつぶやいた私はほんのしばらく思案して。
「と言うわけだから、様子見とさせて頂きます」
侯爵とクロエにそう宣言した私は、
「ヴァレンティ侯爵、クロエを私に預けてくださる? 私も投資してみようと思います」
と彼女の手を取りそう尋ねる。
「リティカ嬢、クロエは貴女の思う通りに育たないかもしれませんよ?」
そう返事をする侯爵に、
「あら、それが先物取引の醍醐味なのでしょう?」
私は笑って返事をする。
「……貴女には敵いませんね」
娘をよろしくお願いしますと言って頭を下げる侯爵に頷くと、
「ふふ、じゃあ"貸し"一つって事で」
この2年ですっかり気心の知れた侯爵に悪戯っぽく笑った私は、
「じゃあクロエ、新しい生活をはじめましょうか?」
クロエ・ヴァレンティは、領地で長期療養中の母親と暮らしている。
そんな体で身を潜めている彼女を、私は密かに引き取った。