追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「はぁぁぁ」

 あのまま魔法省に戻る気にはなれず、城内から抜け出して、城下町の中央区で私は大きなため息を吐く。

『俺はこのままリティカと結婚する気はないよ』

 ライラちゃんはヒロインらしく順調にロア様を攻略しているようで、めでたい限りだわ。
 ふっ、私の思惑通り。
 順調過ぎて高笑いが止まらないわね!

「あと私の遂行すべきタスクは、婚約解消のための手続きと裏ラスボス的な大神官を罠に嵌めて捉えることの2つかしら」

 正直、婚約解消はメアリー様に泣きつけばどうとでもなると思う。
 お父様は勿論、お兄様もまぁ味方についてくれるだろうし。
 傷物令嬢の私は家の体裁を守るために晴れて追放。(海外留学)
 ロア様の嫁は性格が良くて希少な光魔法が使えて、人から慕われて、ロア様に愛される可愛いヒロイン。
 うん、何の文句もないわ。
 やったー私が自由を謳歌できるようになるまであとわずか!
 だと言うのに。

「はぁぁ、何このモヤモヤした感じ」

 公式カップルの成立にモヤモヤするなんて、まるでガチ恋……。

「いや、そんなわけ」

 ない。
 ないはずよ。
 だってずっと自分に言い聞かせてきたんだもの。

「私、ヒトのモノには興味がないの」

 私はそんなお呪いを呟いて、

「しっかりなさい、リティカ・メルティー。あなたは悪役令嬢でしょ」

 自分で自分を叱責する。

「悪役令嬢たるもの、ヒロインの恋路を邪魔して、2人の距離を縮めるサポーターなんだから」

 だから、私は恋なんて。
 しない。
 したくない。
 だって、そんな事をしたって、絶対に叶わないのに。
 そんな事を思った時だった。

「何? この嫌な気配」

 ぞわっと全身に鳥肌が立つような嫌な気配に私は思わず立ち上がる。
 街中はいつも通りの風景なのに、一つ入った路地の奥からとても嫌な気が流れてくる。

「……街中での魔物出現イベント」

 攻略対象もヒロインもいないのに、何でそんなものが発生するのよ!
 誰かを呼ばなくてはと思ったけれど、気配遮断の魔道具を起動していたせいで、私には今、護衛はおろか王家の影すらついていないという事に気がついた。
 とはいえ気づいた以上このまま放置するわけにはいかない。

「上手くいけば、幻惑石や神殿につながるヒントが拾えるかもしれないし」

 エタラブのイベント報酬を思い出した私は、すっと立ち上がると、

「仕方ないわね。やるだけやりますか」

 路地に向かって歩き出した。
< 153 / 191 >

この作品をシェア

pagetop