追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「聖女じゃん! それもう、疑う余地なく完全に聖女じゃん!!」

 誤魔化す気ないでしょ!? とヒロインに向かって盛大にツッコミを入れる。

「……普通に能力の申告をすれば国で保護されていい暮らしだってできるのに」

 こんなにガツガツ身体張らなくてもとため息混じりに伝えるも。

「え、だって正直面倒臭いなって。ただでさえ聖乙女に対するみんなの期待と教会の圧力が鬱陶しいのに、こんな能力持ってるなんて知れたら国に囲われて社畜確かなって」

 神殿の勧誘鬱陶しいし、私は崇められよりお金を稼ぎたいとなんともヒロインらしからぬ回答が返ってきた。

「で、その能力をひた隠しにしてアルバイトで稼いでる、と。雇い主の名は?」

「それは言えません」

 ライラちゃんは目を逸らす事なくキッパリとそう言った。

「そう、じゃあ次の質問」

「え? いいんですか、答えなくて」

 驚いたように目を瞬かせるライラちゃんを見ながら、

「別に答えたくない質問は飛ばしていいわ。私がしているのは"ダウト"だから」

 クスッと私は悪役令嬢らしい笑みを浮かべる。

「私が知りたいのはあなた自身についてよ」

 嘘と本当を織り交ぜる。

「じゃあ、簡潔に答えてね。アルバイトは順調?」

「そうですね、概ね」

「福利厚生は充実してる?」

「ありがたい事に」

「その契約中に副業はできるかしら?」

「内容によっては。許可がいるかもしれませんが」

「私が指定した日に"テレポート"をもう一度見せてもらうことはアルバイトの規約違反かしら? 給金は今の倍額払うわ」

「それは大丈夫だと思いますけど、光魔法の完全回復や浄化ではなく?」

「ええ、光魔法は別にいいの。魔術師として気になるのはむしろ"テレポート"の術式のほうね。私のスイもできるのだけど解析エラーになっちゃうの」

 瞬間移動が実用化できたら素敵じゃない? と夢を語ったところで。

「じゃあ最後、何でその能力を使おうと思ったの?」

 ただお金を稼ぐだけなら他にも方法はあったでしょう、と私は彼女の本心を尋ねる。
 このセリフは、王子ルートで攻略対象が力を使う事を躊躇っていたヒロインが、その能力で攻略対象を助けた時に尋ねるセリフだ。

「憧れている人の役に立ちたいと思ったからです」

 一切の迷いなく、ゲームと同じ表情で同じセリフを答えたライラちゃんを見た私は、ゲームとは少し展開が違うけれどもう2人は両想いになっているんだと確信する。

「そう、よかった」

 さっきほど自分の恋心を自覚して、失恋したことに気づき、この想いに1ミリの可能性もない事を思い知って、私はようやく今未練も迷いも断ち切れた。

「良かった?」

「ほら、前に言っていたじゃない? "嫌になる"って。でも、もう"期待"はライラの肩に乗っても重くないという事でしょう?」

 私は笑顔で嘘をつく。誰かが作った嘘の世界で、悪役令嬢を演じるうちに随分と私も嘘が上手くなった。
 そんな私の本心に気づかない可憐なヒロインは私を見て、可愛く笑う。

「ねぇ、ライラ。あなた神殿に出入りをしているのでしょう? 一つ依頼を受けてくれないかしら?」

 私はそう言ってこの物語のヒロインに微笑む。
 私はこの物語の悪役令嬢だ。
 だから、最後までそれを演じるのだと決めて。
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