追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
 あの悪魔達に隙が出来たのは、仮初の平和を享受し、それぞれに大事なモノができた時だった。
 そんなモノを持つから足元を掬わられるのだ。
 奪った以上、奪われる覚悟を持ち続けなければいつか狩られる側に落ちるのだ。
 策略の糸が紡がれ続けているとも知らず、平和ボケした害獣など敵ではない。
 まず、僕がターゲットとして目をつけたのは、悪魔の伴侶になった毒婦"アリシア・メルティー"。
 アレは本当に邪魔な存在だった。
 この国の人間ですらなかったくせに、"精霊"の存在を否定するような魔法でこの国の秩序を乱し、ヒトがせっかく築いた"精霊信仰"という人々の救いと僕の地位を脅かそうとする。
 大義名分を失えば、神殿の自治権を取り上げられかねない。なんとかしてあの魔女を消さねば。
 だが、毒婦を排除するチャンスはあっさりとやって来た。
 かつて悪魔と言われたあの男はこともあろうに妻を守るために神殿を頼ったのだ。
 国を混乱に陥れた際、手を尽くし万全を期していたのは勿論だが、幼少期に母親によって神殿に隠され存在を消された(王族)が息を潜めて今だに生き残っていることを彼らは知らなかった。
 そうしてじっくりと死に至る呪いを"神託"と称して堂々とあの魔女にかけることに成功した。
 時間をかけた呪いは、僕が知る限り最高の"暗殺"方法だ。
 誰に疑われることもバレる事もなく、毒のように確実にその生を刈り取れる。
 恐怖に怯え、自分を殺すマヌケな夫を恨みながら死ねばいい。
 そう、思っていた。
 だが、アリシア・メルティーはこの地を離れる前に突然僕の目の前に現れた。

「かわいそうなヒト」

 まるでそう思っていないような口調で、口元に笑みを携えた空色の瞳がそう言った。

「私、むしろあなたに感謝しているの。おかげで確実にこの子を産めるから」

 余命1年の保証。それは呪いの代償だった。

「ねぇ、知ってる? 悪役って、頭が良くないとなれないのよ」

 風で靡いたコスモスピンクの髪を耳にかけたその女は、まるで歌でも歌うかのように言葉を紡ぐ。

「ほら、正義の味方なんてワンパターンに一撃必殺で終わりの役回りじゃない? それに対して悪役は正義の味方を陥れるためにどれほど策を練らなきゃならないことか!」

 それで対価(ギャラ)が同額なんて割に合わないと思わない? と楽しげに笑う。
 一体何の世迷言を言いに来たのか、理解に苦しむ。
 真実を知った(僕に辿り着いた)ところで、呪われ言葉を封じられた身では何一つ残せやしないくせに。

「あなた、"悪役"にはなれないわ。絶対にね」

 当たり前だ。
 物語とは、勝者が紡ぐものだ。
 すなわち支配者は正義であり、悪であるはずがない。

「断言するわ。あなたは私から何一つ奪えやしない。私が全て自分で選んでいるのだから」

 ふふっと毒婦らしい笑みを浮かべ、僕を指さす無礼な女。
 だが、結局彼女は2度とこの地を踏む事なく呪いの効果で死んで逝った。
 あれだけ大口を叩いたくせに、あっさりと僕に命を奪われたのだ。
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