追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。

75.ワガママで傲慢な悪役令嬢。

「本来、あなた達は私を守るべきなのではなくて?」

 状況を認識し、さぁーと血の気が引きそうになったのを堪えて私は意識して呆れたような声を出す。
 だが、私を拘束する王家の影は黙ったまま答えない。
 東屋の結界を一番に壊したのはこのためかと舌打ちしたい衝動を抑え、私は必死に思考をフル回転させる。

「あはははは! 僕が主だからに決まっている! 何故数年前に王妃が毒で倒れたと思う? 城内に何人も未来の王である僕の手駒がいるからだよ」

 呼び寄せた王家の影の一人に拘束を解かせた大神官は立ち上がると私の側までやってきて形勢逆転だと言いながら喚く。

「あら? 一人称も口調も変えてキャラ崩壊。悪役でおしゃべりな男はモテないわよ? 小物感出るから」

 私はこんな状況なんでもないかのように言葉を紡ぐ。
 とにかく、時間を稼がなくてはと必死で頭を回転させるけど。

「もうそれは要らん。早々に始末しろ」

 冷たい声が淡々と命じる。

「御意」

 そう聞こえたと同時にそう思った私の喉にピリッと痛みが走る。
 赤い血が肌を伝う。その感覚に否が応でも恐怖に飲み込まれそうになる。
 だけど。

「あの魔女と同じその目が気に入らない! 恐怖に怯えて死んでいけ」

「あら、じゃあ私最後まで笑っていることにするわ」

 大神官の思い通りになるなんて癪だから、私は悪役令嬢らしく笑ってみせる。

「私を殺したところですでに証拠は渡し済み。あなたは私に負けたのよ」

「うるさい、うるさい、うるさい、うるさいっ! 何度も何度も邪魔しやがって」

 私の挑発に苛立った様子を見せた大神官は、懐から短剣を取り出し私の顔の前でチラつかせる。

「可愛らしく頭を垂れて命乞いの一つでもしてみせればいいものを」

 嘲笑と侮蔑を含んだオパールの瞳が私に命じる。
 大神官はどうやら私の顔が絶望に染まるのがご所望らしい。

「私はリティカ・メルティー。この国唯一の公爵令嬢よ! あなたみたいな小物に屈して頭を垂れるなんて、我が公爵家の品位を落とすような真似は絶対しない」

 だというのなら、思い通りになどなってやるものか。
 私を奮い立たせたのは公爵令嬢としての矜持(プライド)だった。

「ふふ、あなたには何も奪えない。お母様からも、私からも、勿論この国からもね。この国の次代を担うのはあなたじゃない。ロア様よ」

 私は空色の瞳を瞬かせ、口角をあげると、

「かわいそうな人」

 そう言ってふわりと笑ってみせる。

「貴様っーー」

 大神官は短剣を私に向かって振り下ろす。
 魔法ならスイの能力で無効化できただろうが、物理攻撃は防げない。

「死ねーー!!」

 大神官の叫び声と重なるようにキーンと硬質な音と何かが吹き飛んだ音があたりに響く。
 痛みと死を覚悟しそれでも意地になって閉じなかった私の目に映ったのは、月の光を浴びて輝く優しい金色の髪。

「リティカ、みーつけた」

 まるで、かくれんぼでもしていたときのような口調でそう言って、無事でよかったと濃紺の瞳がふわりと私に笑いかけた。
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