追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「……えーっと、リティカ」

「ほんっとーーーに、申し訳ございませんでしたーー!!」

 一周まわって冷静になった私は、床に頭を擦り付ける勢い、まぁ所謂土下座で全身全霊ロア様にお詫びする。
 公爵令嬢である今世は勿論、前世入れても人生初土下座。
 はぁ、それにしても敷き詰められた絨毯すっごくふかふか! さすがロア様の私室ね、なんてどうでもいい事で現実逃避したくなる。
 が、やらかした事実は変わらない。

「えっと、リティカ。とりあえず顔を」

「私にロア様のご尊顔を拝する資格はございませんわ」

 きゅっと私は唇を噛み締める。
 悪役令嬢あるまじき、なんという失態!
 自分の認識の甘さで大神官に一撃をくらい、魔力を制御できず過呼吸を起こしたどころか、あ、あろう事かロア様(推し)の唇を穢してしまうだなんて。
 しかも、私にとってはアレがファーストキスなのに。
 許すまじ大神官。

「リティカが落ち着いたなら構わないって」

 うう、ロア様優しい。
 王子様だものね。人命第一。
 アレは過呼吸発作を治めるための応急処置。
 つまり、人命救助。
 というわけで、ノーカン!
 頭では分かってはいるんだけども!

「私は構います。私、一体どうやって償えば……うぅ、私もう一生ロア様を直視できませんわぁ」

 キスに関しては相手がロア様なので私的には役得過ぎるけども、ロア様とライラちゃんに対して申し訳なさ過ぎる。
 もういっそのことこのまま婚約破棄されてマリティに逃亡したい。
 いや、王族相手にこんな不敬罪と取られても仕方のないことをしでかしたのだ。
 断罪イベント後の処遇は追放じゃなくて、処刑?
 ぐるぐるぐるぐると思考が堂々巡りを繰り返し、どうしようもなく泣きたくなった。

「リティカ」

 土下座したまま顔を上げられない私のすぐ側でロア様の気配がしたかと思うと、そっと優しく頭を撫でられる。

「ごめんね。リティカのファーストキス、あんな形で奪って」

 ロア様が謝る事なんて一つもないのに。
 うぅっと情けなさが増したところで、

「まぁ、俺も初めてだったからおあいこって事で許して欲しい」

 とんでもないカミングアウトが聞こえた。
 ん?
 んんんん??
 はい? 今、なんと?
 初めて? いや、そんなはずは。

「学園祭の時ライラちゃんと抱き合ってキスしてました、よ……ね?」

 学園祭イベントの光景を引き合いに出せば。

「リティカ、あれは芝居。本当にやるわけないだろう」

 当たり前の答えが返ってきた。

「…………お芝居」

「学園祭のうちクラスの出し物が演劇なのはリティカも知っていただろ」

 うん、知ってた。超楽しみにしてましたとも。
 そして当たり前の指摘を受けて我に返る。
 2人のキスシーンは未来の光景でも私の白昼夢でもなかったわけで。
 まだ婚約破棄されてないリティカ(お邪魔虫)がいるのに、真面目なロア様が不貞をはたらくはずもなく。
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