追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
 その後面会謝絶中の私がお兄様に頼んでこっそり連れて来てもらったクロエとライラちゃんにも沢山泣かれた。
 上手く魔力が安定せず、碌に魔法が使えないどころか、いつ暴発してもおかしくない状態の私に、

「リティカ様の事は私が治します!」

 躊躇うことなく抱きついて宣言したライラちゃんの申し出を、

「いらないわ」

 私は秒で断った。

「……どうしてですかぁ?」

 なんでダメなのとぐずぐずと泣くライラちゃんの青緑色の髪を撫でながら、

「ライラ、あなたは聖女になりたくないのでしょう?」

 私は静かにライラちゃんに問いかける。

「私のこの状態は通常のポーションでは治せない。私がこんな状態であることはすでに陛下の耳にまで入っているわ。"完全回復"なんて使ったら、あなたの能力、そして聖女であることも絶対に誤魔化せないわよ?」

「……でも」

 きゅっと唇を噛むライラちゃんの翡翠色の瞳を真っ直ぐ覗き込む。

「例えばあなたが"聖女"であったなら、私は正式に治癒を依頼したかもしれない。だけど、今のあなたはそうではない」

 これは、私にできるヒロイン育成計画の最後のレッスンだ。

「私は何かを受け取るならその"能力"に見合った対価が支払うべきだと思っている。あなたの力は決して軽んじていいものではない。後ろ盾もなく、安易にその力を使ったなら、絶対誰かに悪用されるわよ」

 残念ながらこの世界の住人すべてが善人ではない。
 例えば、大神官のような人間だって存在する。

「大きな"権力"ならあなたを悪意から守ってくれるでしょうね。ただし、権力を行使するには"義務"も付きまとうけれど」

 聖女であれば、国が保護する対象になる。
 もしロア様の隣にいることを選ぶならライラちゃんの力が悪用されることもないだろう。

「ライラには唯一無二の力がある。あなたが望もうが望まなかろうが、それは変わらない。力には責任が伴う。それを忘れずに自分で選びなさい。どうありたいのか、を」

 覚悟が決まらないうちはライラに治癒を頼むつもりがないのだとはっきりと告げる。

「それに、私にはいずれ何らかの処罰が下るでしょう」

「処罰?」

 聞き返すライラちゃんに私は静かに頷く。
 大神官の指示で様々な悪事を行った。そして私は他の人達とは違い"幻惑石"で操られてなどいなかった、と証言している。
 術者が倒れたことで皆正気に戻ったようだし、操られている間の事は朧げな記憶しかなかったようだが、私は違う。
 それは、自分の意思で罪を犯したのと同義だ。

「どんな人間であれ、罪は償わなくてはならないわ。そこにどんな理由があったとしても。元々私は素行も悪く、悪評塗れ。貴族としての身分剥奪もありえるわ」

 悪役令嬢の宿命なのか、私は敵を作りやすい。そして、王太子の婚約者とは常に多くの人間から隙あらばいつでも成り替わろうと狙われている。
 お父様が私をこの家から出すことに決めたのは、そんな悪意から私を守るためでもある。

「ま、そんなわけだから。私、海外に逃亡するわ」

 素直に処罰されて晒し者になるなんて癪だし、と私は悪びれる事なく肩をすくめた。
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