追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
79.悪役令嬢と答え合わせ。
気まずい。
正直、今すぐ逃げ出したいくらい気まずい。
ロア様と一緒にいてかつてこんなに気まずさを覚えた事があったかしらと思いながら私は少しでも落ち着こうとミルクティーを口にする。
「わぁ、美味しい」
口にした途端、思わずそんな言葉が漏れる。
「アップルミルクティーですね。すごくいい香り。甘さもちょうどいいし、ハチミツとバター入ってます?」
あまりの美味しさにわぁーと感動しながらもう一口飲んだ私を見たロア様は、
「正解。リティカはりんごが本当に好きだね。喜んでくれたならよかった」
私の正面に座るロア様はシナモンを混ぜても美味しいよとふわりと優しい笑顔を浮かべ、綺麗な所作で自分の分のミルクティーを口にする。
そんなロア様を見ながら私は目を瞬かせる。
ロア様とのお茶会、なんて。
当たり前に2人で過ごした日々は、もう随分昔の事のようで。
なんて、贅沢な時間なんだろう。
ロア様のブレンドティをもう一度飲める日が来るなんて、思っていなかったから尚更そんなことを思ってしまう。
ロア様とこの半年についてぽつり、ぽつりと言葉を交わしながら、私は自分がいなくなってからの母国の様子をようやく把握する。
それと同時に本当に今日が最後なのかもしれないと思い、身体がこわばる。
真面目なロア様の事だから、私との関係を書類だけでなく対面で清算しに来たのかもしれない、と。
「……本日の御用向きをお伺いしても?」
「ライラが正式に聖女に任命される事になったよ」
元々素質はあったけど、今では全属性魔法が使えるようになったんだとロア様が静かに笑う。
「そうですか。それは、喜ばしい限りですね」
私は今、どんな顔をしているんだろう。
声が強張っているのが、自分でもわかる。
「聖女、であれば。国が保護する対象であり、王族が側に置く相手としても申し分ないですね」
ライラちゃんの前では、笑顔を取り繕って嘘も上手につけたのに。
いつから、ロア様の前ではこんなにも嘘が下手になってしまったのか。
あれだけ大変な王妃教育に耐えたのに、と我ながら呆れてしまう。
「リティカ。それで俺は彼女を」
「ライラであれば、私に異論はございませんわ」
派手な婚約破棄は物語だけで、実際はこんなふうに静かに終わるのだろう。
攻略対象であるロア様が正式な手順を踏んで、好きな人の手を取る。
それを責める権利は、悪役令嬢の私にはない。
だけど、せめて。
「私との婚約はこれにて破棄とさせていただきたく思います」
ロア様の口から直接語られるよりも早く、私は自分で終わりを選ぶ。
すでに失恋しているというのに、もう一度ロア様からフラれるなんてごめんだもの。
声は震えていたけれど、涙を溢さなかっただけ上出来。
私は残りのミルクティーを飲み干して、ロア様から視線を外し外を見る。
静かに椅子から立ち上がる音を聞きながら、これで本当におしまいと心の中でつぶやく。
が、ロア様が立ち去るのを待っている私に聞こえてきたのは、
「嫌だ」
短く、でもハッキリとした拒絶の言葉。
驚く私の目の前にやってきて、傅いて視線を合わせたロア様は、
「絶対に、嫌だ」
私の手をぎゅっと握り、
「リティカがいない人生なんて、考えられない」
真っ直ぐ濃紺の瞳を私に向けてそう言った。
正直、今すぐ逃げ出したいくらい気まずい。
ロア様と一緒にいてかつてこんなに気まずさを覚えた事があったかしらと思いながら私は少しでも落ち着こうとミルクティーを口にする。
「わぁ、美味しい」
口にした途端、思わずそんな言葉が漏れる。
「アップルミルクティーですね。すごくいい香り。甘さもちょうどいいし、ハチミツとバター入ってます?」
あまりの美味しさにわぁーと感動しながらもう一口飲んだ私を見たロア様は、
「正解。リティカはりんごが本当に好きだね。喜んでくれたならよかった」
私の正面に座るロア様はシナモンを混ぜても美味しいよとふわりと優しい笑顔を浮かべ、綺麗な所作で自分の分のミルクティーを口にする。
そんなロア様を見ながら私は目を瞬かせる。
ロア様とのお茶会、なんて。
当たり前に2人で過ごした日々は、もう随分昔の事のようで。
なんて、贅沢な時間なんだろう。
ロア様のブレンドティをもう一度飲める日が来るなんて、思っていなかったから尚更そんなことを思ってしまう。
ロア様とこの半年についてぽつり、ぽつりと言葉を交わしながら、私は自分がいなくなってからの母国の様子をようやく把握する。
それと同時に本当に今日が最後なのかもしれないと思い、身体がこわばる。
真面目なロア様の事だから、私との関係を書類だけでなく対面で清算しに来たのかもしれない、と。
「……本日の御用向きをお伺いしても?」
「ライラが正式に聖女に任命される事になったよ」
元々素質はあったけど、今では全属性魔法が使えるようになったんだとロア様が静かに笑う。
「そうですか。それは、喜ばしい限りですね」
私は今、どんな顔をしているんだろう。
声が強張っているのが、自分でもわかる。
「聖女、であれば。国が保護する対象であり、王族が側に置く相手としても申し分ないですね」
ライラちゃんの前では、笑顔を取り繕って嘘も上手につけたのに。
いつから、ロア様の前ではこんなにも嘘が下手になってしまったのか。
あれだけ大変な王妃教育に耐えたのに、と我ながら呆れてしまう。
「リティカ。それで俺は彼女を」
「ライラであれば、私に異論はございませんわ」
派手な婚約破棄は物語だけで、実際はこんなふうに静かに終わるのだろう。
攻略対象であるロア様が正式な手順を踏んで、好きな人の手を取る。
それを責める権利は、悪役令嬢の私にはない。
だけど、せめて。
「私との婚約はこれにて破棄とさせていただきたく思います」
ロア様の口から直接語られるよりも早く、私は自分で終わりを選ぶ。
すでに失恋しているというのに、もう一度ロア様からフラれるなんてごめんだもの。
声は震えていたけれど、涙を溢さなかっただけ上出来。
私は残りのミルクティーを飲み干して、ロア様から視線を外し外を見る。
静かに椅子から立ち上がる音を聞きながら、これで本当におしまいと心の中でつぶやく。
が、ロア様が立ち去るのを待っている私に聞こえてきたのは、
「嫌だ」
短く、でもハッキリとした拒絶の言葉。
驚く私の目の前にやってきて、傅いて視線を合わせたロア様は、
「絶対に、嫌だ」
私の手をぎゅっと握り、
「リティカがいない人生なんて、考えられない」
真っ直ぐ濃紺の瞳を私に向けてそう言った。