追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
『私はあくまでロア様の婚約者です。そこを譲る気はありません』

 俺が王太子にならないと聞いたリティカは、躊躇うことなくそう言った。

『ロア様が私をパートナーとしてお望みでないのなら、いつでも白紙撤回して頂いて構いません。私、できたらロア様には陛下とメアリー様のように恋愛結婚して欲しいなって思っているので』

 だけど、俺が望めばこの婚約をなかったことにしても構わないという。

『それまでは私がロア様をお守りいたします』

 この前もリティカにそう言われた。あれは本気だったのか、と今知った。
 貴族の令嬢など守られることが前提で後に隠れることが当たり前。王子なのだから、私のことを守ってくださいと責任を押し付けてくる令嬢たちが多い中で、リティカは俺を守ると言う。

『私、この国もロア様のことも大好きなので』

 その向けられた"大好き"は、第一王子だからでも、将来王になる人間だからでもなく、単純に(ロア)だから?
 そう思ったらリティカの言葉に不意に泣きそうになった。

「ですって、ロア」

 リティカがいなくなってから、俺がいることに気づいていたらしい母上から声がかかった。

「リティカが頑張ってたのは大好きな誰かのためなのねぇ」

 リティカはよくも悪くもまっすぐで、こうと決めたら一直線だ。
 その素直さはいつもいつでも自分を偽って逃げている俺にはまぶしい位で。

「リティカと婚約解消したいなら、他に好きな子でも見つけなさいな。あの子ならきっと、貪欲に学び、強くたくましくなるから。あなたと婚約を解消したところでいくらでも良縁に恵まれるでしょうし」

「ヤダ」

 母上の言葉にほぼ反射的にそう答えていた。

「なら、どうすれば失わずに済むのか考えなさい。ヒトの努力と好意を踏み躙ってはダメよ?」

 ポンと頭に乗せられた手の重みと言葉を考えて、俺は頷く。
 俺は自分で思っているより、ずっと単純な人間だったらしい。
 俺はその日から面倒事から逃げることをやめた。
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