追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「だから、私は守ってもらわなくても大丈夫。むしろロア様を守ってあげます」
私が引っ張って乱れてしまったロア様のタイを直すためにロア様に手を伸ばす。
「だから、そんな怖い顔しないで。私、優しく笑いかけてくれるいつものロア様がいいです。お茶をしている時みたいに」
きゅっとタイを結び直し、トンとロア様の胸を軽く押して小首を傾げる。
私がプレイした事のある王子ルートのロア様はヒロインが無茶な提案をして無双する時、いつも優しく笑って受け入れていた。
その優しさに、ヒロインは惹かれていくのだ。その設定はぜひ残したまま成長して欲しい。
「慰謝料入ったらまた一緒にお茶しましょう! 今度はロア様がお好きな茶葉を私が準備しますから」
王子様育成計画もまだ進行中。王妃教育が一区切りした今なら休息を取るのだって悪くないはずだ。
「……俺が、君を避けていた事を承知で茶会に誘ってくれるのか」
ロア様に言われてそういえばそうだったと思い出す。
正直、忙しすぎて避けられていた事を忘れていたわ。
「そうでしたっけ? お互い時間の都合が合わなかっただけでしょう?」
だからそれに関してはなかった方向にならないかしら、と私はとぼけてみる。
王子様の近くに悪役令嬢がいないと王子ルートが成立しなくなっちゃうし。
「だから、今度お茶をしましょ。アップルパイの作り方教えてもらう予定なので、ロア様にも食べていただきたいですし」
「……リティカが作るのか?」
意外そうな目をする藍色の瞳を見ながら、私は頷く。
「そうですよー。先生にお料理習うのです!」
まぁ、上手くできる保証はない上に普段王宮に仕えている一流の料理人の作ったものしか食さないヒト相手に美味しいと言ってもらえる自信はないんだけど。
「だから、約束です」
私は多少強引に約束を取り付けようと小指を出す。
じっと私の指を見た後、ロア様は指を絡めて指切りをしてくれた。
「慰謝料いくら取れるかなー。期待していてくださいね」
ヴァレンティ侯爵は財務大臣だし、侯爵家はいくつか鉱山を持っていた。
上手く踏んだくれたら問題なく100億クランはいけるはず。
「分かった。この件には手を出さない。お茶会期待しているから、無理をしないで何かあれば私にも言うんだよ?」
大きなため息の後そう言って笑いながら私の髪を撫でたロア様はいつも通り可愛い王子様に戻っていた。
よかった、とほっとした瞬間全身からガクッと力が抜けて足がもつれる。
「あれ? おかしいな……」
震えも落ち着いて全然平気だったのに、いったいどうして?
遠ざかる意識の中で、私の名前を繰り返し呼ぶロア様の声を聞きながら、そういえばロア様の一人称って"私"だったよね、と最後以外"俺"と言っていた事や口調、あのタイミングで助けに来た事に今更違和感を覚えたけれど、私の思考がそれ以上何かを弾き出す事はなかった。
私が引っ張って乱れてしまったロア様のタイを直すためにロア様に手を伸ばす。
「だから、そんな怖い顔しないで。私、優しく笑いかけてくれるいつものロア様がいいです。お茶をしている時みたいに」
きゅっとタイを結び直し、トンとロア様の胸を軽く押して小首を傾げる。
私がプレイした事のある王子ルートのロア様はヒロインが無茶な提案をして無双する時、いつも優しく笑って受け入れていた。
その優しさに、ヒロインは惹かれていくのだ。その設定はぜひ残したまま成長して欲しい。
「慰謝料入ったらまた一緒にお茶しましょう! 今度はロア様がお好きな茶葉を私が準備しますから」
王子様育成計画もまだ進行中。王妃教育が一区切りした今なら休息を取るのだって悪くないはずだ。
「……俺が、君を避けていた事を承知で茶会に誘ってくれるのか」
ロア様に言われてそういえばそうだったと思い出す。
正直、忙しすぎて避けられていた事を忘れていたわ。
「そうでしたっけ? お互い時間の都合が合わなかっただけでしょう?」
だからそれに関してはなかった方向にならないかしら、と私はとぼけてみる。
王子様の近くに悪役令嬢がいないと王子ルートが成立しなくなっちゃうし。
「だから、今度お茶をしましょ。アップルパイの作り方教えてもらう予定なので、ロア様にも食べていただきたいですし」
「……リティカが作るのか?」
意外そうな目をする藍色の瞳を見ながら、私は頷く。
「そうですよー。先生にお料理習うのです!」
まぁ、上手くできる保証はない上に普段王宮に仕えている一流の料理人の作ったものしか食さないヒト相手に美味しいと言ってもらえる自信はないんだけど。
「だから、約束です」
私は多少強引に約束を取り付けようと小指を出す。
じっと私の指を見た後、ロア様は指を絡めて指切りをしてくれた。
「慰謝料いくら取れるかなー。期待していてくださいね」
ヴァレンティ侯爵は財務大臣だし、侯爵家はいくつか鉱山を持っていた。
上手く踏んだくれたら問題なく100億クランはいけるはず。
「分かった。この件には手を出さない。お茶会期待しているから、無理をしないで何かあれば私にも言うんだよ?」
大きなため息の後そう言って笑いながら私の髪を撫でたロア様はいつも通り可愛い王子様に戻っていた。
よかった、とほっとした瞬間全身からガクッと力が抜けて足がもつれる。
「あれ? おかしいな……」
震えも落ち着いて全然平気だったのに、いったいどうして?
遠ざかる意識の中で、私の名前を繰り返し呼ぶロア様の声を聞きながら、そういえばロア様の一人称って"私"だったよね、と最後以外"俺"と言っていた事や口調、あのタイミングで助けに来た事に今更違和感を覚えたけれど、私の思考がそれ以上何かを弾き出す事はなかった。