追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
 父を始めとした関係者に連絡を入れた俺が現場に駆けつけたときには、ロア様の魔力に当てられたリティカが気を失った後だった。

「リティー! リティカ!! ごめん、本当にごめん。お願いだから、目を開けて……リティー」

 何度もリティカの名を呼びながら、泣いているロア様からは暴走した魔力は感じられなかった。
 あの状態を自力で抑えたのか、と驚くと同時にまるで大切なモノでも扱うかのようにロア様がリティカを抱きしめている光景に息を飲む。
 ロア様にとってリティカはただ単純に都合の良い相手だっただけのはずで。
 父と同様にリティカの将来の事など何一つ考えず、リティカに破滅をもたらす存在だと思っていたのに。

「リティカ、ごめん」

 心の底から後悔し、リティカにそっと触れるその姿に偽りがあるようには見えなくて。
 早々にリティカを取り戻そうと思っていたさっきまでの考えが失せそうになる。

「……リティカを医務室に運びます。ロア様お手をお離し下さい」

 俺はそう言って、ロア様に声をかける。

「ダメだ、運ぶなら俺が」

「俺の妹なので、俺が運びます。それに今のあなたでは無理です。鍛え直して出直してください」

 バッサリそう言い切った俺は、リティカを抱え上げる。

「セザール……すまない」

「魔力に当てられただけでしょうから、すぐ目を覚ましますよ。リティカは割と丈夫な子なので」

 そう言って、俺は歩き出す。
 まるで叱られた子犬のように、しゅんと肩を落としとぼとぼとついてくるロア様に俺は淡々とした口調でそう告げる。

「被害がリティカだけで済んでよかったです」

「全然、良くない」

 きゅっと唇をかみしめて、フルフルと首を振ったロア様は、

「もっと、強くならないと」

 と指先に視線を落とす。

「ロア様」

 サボり魔で、やる気なく面倒を回避していたロア様が、そう言ってグッと拳を握りしめるのを見て、俺はクスリと笑う。

「笑うな。次はお姫様抱っこ譲らないからな!」

 びしっと、俺に人差し指を突きつけて、そんなことを宣言するロア様。

「……そもそもリティカが倒れるような事態を作るのはやめてもらえます?」

 どこに対抗意識を燃やしているんだと苦笑しつつ、俺は少しふてくされたような顔をする妹の婚約者を眺める。
 前言撤回。
 どうやら妹の努力は報われそうだ。
 ほっとしたような、それでいて少し残念なようなそんな感情を覚えつつ、俺はもうしばらくこの2人の関係について静観することにした。
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