追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「とりあえず即金で100億クランは受け取るとして。具体的にはそうねぇ、あなた確か投資が得意だったわね。これを元手にとりあえず倍に増やして頂戴?」

 私は落ちていた小切手を拾い上げ、侯爵の目の前に突き出すと無理難題をさも当然のようにふっかけた。
 どうせどこかで見ているだろう観客(王家の影)を意識して、悪役令嬢らしく傲慢な笑みをにやりと浮かべ、心底楽しそうな無邪気さを装う。

「あと鉱山の管理も面倒だから代わりにやっておいてくださる? 手数料くらいはくれてあげるから」

 ヴァレンティ侯爵家はその領地に数多くの鉱山を保有している。私に譲ると明記してあったその鉱山。管理の手数料だけでも充分すぎるほどの収益になるはずだ。

「ああ、私の狗が私の品位を落とすなんてありえないから。だからこれからも貴族としての体面を保ちなさい? 必要経費を払うのも、飼い主の務めね。だからそのために必要な額はあなたに預けるこのお金から出して構わないわ」

 きつい言い方を直訳すれば、今まで通りの生活をしろってことだけど、ちゃんと通じてるよねと内心涙目になりつつ、私は悪役令嬢ムーブをかます。

「あー、あとあなたの娘になど興味はないわ。私の目に入らない子どもに一々目くじら立てるほど私暇じゃないの。だから、私に歯向かうような身の程知らずに育たないよう妻もろとも侯爵自らしっかり教育なさいね? もちろん、侯爵夫人はもう二度と私の目に触れないようにして頂戴。だからといって簡単に殺してしまうなんてつまらない真似をしてはダメよ。いい修道院なら、いつでも紹介してあげるから」

 母親がそばにいることが良いこととは限らない。それでも令嬢にとっては必要な人かもしれないし、その辺の家庭事情は私にはわからないのだから、夫人への罰の裁量は侯爵本人に任せようと思う。

「とりあえず私の要求はこんな所かしら? これから先私が言うことには、全てハイと答えなさい。あなたは私の飼い狗なのだから」

 私の並べた要求はどれもこれもすぐさま達成できるものではない。つまり私の命令が遂行され、私が納得するまで侯爵は贖罪という名の鎖で私に縛られる。
 私のモノであれば、いくらお父様がお怒りだとしても、勝手に侯爵家に処分を下す事はないでしょう。何せお父様は私にベタ甘ですから。

「……ははっ、コレは驚いた。失礼だが、私はあなたの事をただのわがままな小娘だと侮っておりました」

 見事な演技力をお持ちだなんて褒めてくれるところ申し訳ないのだけれど、数ヶ月前までは素でそうだったんだけどねと私は乾いた笑みを浮かべる。

「寛大な処置に感謝申し上げます」

「あら、一体何のことかしら? 私はただいつも通り、私の欲望を述べただけよ」

 これでよろしいかしら、とお父様の視線を流せば、

「……リティカがそう望むなら」

 とため息交じりにうなずいてくれた。どうやら事はおさまったらしいと私はほっと胸を撫で下ろす。
 自分の振る舞いや発言で1つの家門の運命を左右してしまうだなんて、私には荷が重過ぎる。
 あーやっぱり早く国外追放されて、裕福な庶民として悠々自適なスローライフを送りたい。
 私はそんなことを考えつつ、棚ぼた的に王子ルートを進めるために有利に働きそうなカードの1つを手に入れたのだった。
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