追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
24.悪役令嬢的解決策。
カラスとは、王族の手足となって表沙汰にできない厄介事を片付ける暗部の人間の事を指す。
乙女ゲームでもその存在が描かれていたけれど、人物自体は描かれていなかった。
そんなわけでお会いするのは初めてなのだけれど、なかなかに優秀な人だった。
あっという間に欲しい情報を調べて持ってきてくれたし、今日はお忍びでお出かけしている私のことを護衛をしてくれている。
どこかにいるらしいのだが、私ごときでは、全くもって気配を感じることができない。
まぁ、どこかにはいるからそれでよし。
さすがにこんなか弱く可愛らしい子どもひとりでは、危なくてこんなところに出入りできませんし。
目的の場所に辿り着いた私は勢いよく立て付けの悪いドアを押す。
ギィーと耳障りな音を立てて開いたその先で、
「……こんなところに何の用だい、お嬢ちゃん」
虚な目をした恰幅のいい人間と目が合う。
「面白い事を聞くわね。こんな所に来る人間の用件など決まっているでしょう」
私はテーブルに金貨の入った袋を放る。
「人を買いに来た。それだけよ」
人身売買や奴隷制度はこの国では廃止されているはずなのだけれど、残念ながらまだ根絶しきっていないのが現状だ。
私の身元を割らないためには、人を使うのが良かったのかもしれないけれど、どうしても自分で迎えに来たかった。
「……へへ、足らねぇな嬢ちゃん」
明らかにしつけの悪そうなゴロつきたちが私を値踏みするような視線を寄越し、さらに金額を釣り上げる。
「そう、ではこのくらいかしら?」
私はさして面白くなさそうに、追加でもう1袋金貨を放る。
「おう、話がわかるじゃねーか。ついて来な」
地下に続く扉を開け、下卑た笑いを私に向ける。聞いていた情報と違うみたい。
「あなたたちに言いたいことがあるのだけれど」
私は小さくため息をつく。
「私に手を出すのはやめたほうがいいわ」
私は私を捕らえようと背後に立った男の手を掴んで、口の中で魔法式を唱える。
「ぐぁぁあーー!! お前、何を」
本来と逆の方向に曲がった腕を押さえて男が叫ぶ。
「何って……害虫駆除かしら?」
せっかく穏便に済ませてあげようと思ったのに、と私は悪役令嬢らしくニヤリと笑うと、金貨の山を回収し、
「あーこれ、もともとあなたたちに払う予定じゃないから」
そう言って、私が振り返ったときには男たちは意識を失くし縛り上げられた後だった。さすがカラス、仕事が早い。
「えーっと、正しくはこっちから、だっけ?」
私は男達が私を連れ込もうとした方と反対の棚を開け、そこに現れたドアに解除のための魔法式を綴り結界を強引に壊す。
「んー立て付け悪くてか弱い私の力じゃ開かないわね。ちょっと失礼?」
私はポケットからスイを取り出して、
「スイ、この扉全部食べちゃって」
とお願いをする。すると、うれしそうに一声鳴いたスイは、ビローンと伸びてあっという間にドアを覆い尽くし、溶かして食べてしまった。
「きゅーゆぅー」
「あら、そんなにおいしかったの? ほんとに食いしん坊さんなんだから」
私はスイを肩に乗せるとコツコツとブーツを鳴らして中に入る。
狭い空間にすえた臭い。腐敗した食べ物とゴミに混ざって、そこには子どもが何人もいた。
私に向けられる、敵意と憎悪と恐怖と困惑の視線。
その中から、私は目的の人物を見つけ出す。
魔力封じの手錠を両手にかけられ、傷だらけの彼の前に立ち止まり、
「ねぇ、取引したいの」
と私は淡々とした口調で話しかける。
聞いていた通り、雪のように真っ白な長い髪に金色の目。
「ここにいる子達、全員助けてあげる。だから私に買われてくれない?」
私は金貨の山を彼の前に置く。
「前金。生きて帰って来られたら成功報酬はもっと用意するわ。どう?」
何も言葉を発しない金色の瞳はただじっと私を見たのち、盛大にぐぅーとお腹の音が鳴らした。
「あらやだ私ったら、契約を急ぐばかりにもてなしを忘れていたわね」
私はパチンと手を叩き、
「お話はランチを食べてからにしましょうか?」
彼、このゲームの隠しキャラである、セドリック・アートに手を伸ばした。
乙女ゲームでもその存在が描かれていたけれど、人物自体は描かれていなかった。
そんなわけでお会いするのは初めてなのだけれど、なかなかに優秀な人だった。
あっという間に欲しい情報を調べて持ってきてくれたし、今日はお忍びでお出かけしている私のことを護衛をしてくれている。
どこかにいるらしいのだが、私ごときでは、全くもって気配を感じることができない。
まぁ、どこかにはいるからそれでよし。
さすがにこんなか弱く可愛らしい子どもひとりでは、危なくてこんなところに出入りできませんし。
目的の場所に辿り着いた私は勢いよく立て付けの悪いドアを押す。
ギィーと耳障りな音を立てて開いたその先で、
「……こんなところに何の用だい、お嬢ちゃん」
虚な目をした恰幅のいい人間と目が合う。
「面白い事を聞くわね。こんな所に来る人間の用件など決まっているでしょう」
私はテーブルに金貨の入った袋を放る。
「人を買いに来た。それだけよ」
人身売買や奴隷制度はこの国では廃止されているはずなのだけれど、残念ながらまだ根絶しきっていないのが現状だ。
私の身元を割らないためには、人を使うのが良かったのかもしれないけれど、どうしても自分で迎えに来たかった。
「……へへ、足らねぇな嬢ちゃん」
明らかにしつけの悪そうなゴロつきたちが私を値踏みするような視線を寄越し、さらに金額を釣り上げる。
「そう、ではこのくらいかしら?」
私はさして面白くなさそうに、追加でもう1袋金貨を放る。
「おう、話がわかるじゃねーか。ついて来な」
地下に続く扉を開け、下卑た笑いを私に向ける。聞いていた情報と違うみたい。
「あなたたちに言いたいことがあるのだけれど」
私は小さくため息をつく。
「私に手を出すのはやめたほうがいいわ」
私は私を捕らえようと背後に立った男の手を掴んで、口の中で魔法式を唱える。
「ぐぁぁあーー!! お前、何を」
本来と逆の方向に曲がった腕を押さえて男が叫ぶ。
「何って……害虫駆除かしら?」
せっかく穏便に済ませてあげようと思ったのに、と私は悪役令嬢らしくニヤリと笑うと、金貨の山を回収し、
「あーこれ、もともとあなたたちに払う予定じゃないから」
そう言って、私が振り返ったときには男たちは意識を失くし縛り上げられた後だった。さすがカラス、仕事が早い。
「えーっと、正しくはこっちから、だっけ?」
私は男達が私を連れ込もうとした方と反対の棚を開け、そこに現れたドアに解除のための魔法式を綴り結界を強引に壊す。
「んー立て付け悪くてか弱い私の力じゃ開かないわね。ちょっと失礼?」
私はポケットからスイを取り出して、
「スイ、この扉全部食べちゃって」
とお願いをする。すると、うれしそうに一声鳴いたスイは、ビローンと伸びてあっという間にドアを覆い尽くし、溶かして食べてしまった。
「きゅーゆぅー」
「あら、そんなにおいしかったの? ほんとに食いしん坊さんなんだから」
私はスイを肩に乗せるとコツコツとブーツを鳴らして中に入る。
狭い空間にすえた臭い。腐敗した食べ物とゴミに混ざって、そこには子どもが何人もいた。
私に向けられる、敵意と憎悪と恐怖と困惑の視線。
その中から、私は目的の人物を見つけ出す。
魔力封じの手錠を両手にかけられ、傷だらけの彼の前に立ち止まり、
「ねぇ、取引したいの」
と私は淡々とした口調で話しかける。
聞いていた通り、雪のように真っ白な長い髪に金色の目。
「ここにいる子達、全員助けてあげる。だから私に買われてくれない?」
私は金貨の山を彼の前に置く。
「前金。生きて帰って来られたら成功報酬はもっと用意するわ。どう?」
何も言葉を発しない金色の瞳はただじっと私を見たのち、盛大にぐぅーとお腹の音が鳴らした。
「あらやだ私ったら、契約を急ぐばかりにもてなしを忘れていたわね」
私はパチンと手を叩き、
「お話はランチを食べてからにしましょうか?」
彼、このゲームの隠しキャラである、セドリック・アートに手を伸ばした。