追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
『でね! セド様の設定が超エモいの!! もう、涙なしにはエンディング見られないよぅ』
と私に言っていたのは前世で私にエタラブを勧めた友人だ。
『王子様を狙って王宮に潜りこむ暗殺者なんだけど、乙女ゲームなのに2人のやり取りにキュンキュンし過ぎて別の何かに目覚めそうになる〜。もちろん、ヒロインとの絡みと切ない3角関係がっ』
などと熱く語っていたなぁと今更ながら思い出す。
暗殺者ルートは王子ルートの選択によって途中で分岐発生し、なおかつ本当にヒロインと結ばれたかはエンディングまで分からないという代物。
攻略条件がかなり難しいけど、その分ファン心理をガッツリ捉えたそのストーリーは課金の価値ありとのこと。(前世の友人談)
隠しキャラの攻略は乙女達の義務らしい。
そんな乙女達を沼に落としまくっていた彼、セドリック・アートは現在私に有無を言わさず公爵家に連れて来られ、侍女達にピカピカに磨かれた後、温かい食事を前に息を呑んでいた。
「どうぞ、召し上がってちょうだい」
勧められたセドリックは息を呑むだけで、手を伸ばさない。
「うーん、お腹空いてるのよね? 消化にいいモノを用意したのだけれど、もっとガッツリした食べ物の方がよかった? お肉とか」
ガリガリに痩せていて全身傷だらけだったセドリックには、とりあえずお兄様特製のポーションをぶっかけまくったので怪我は治っているはず。
空腹のはずなのに食事を前に手を出さないセドリックの気持ちが分からず、育ち盛りの男の子向けのメニューじゃなかったかしらと私は首を傾げる。
「自慢するけど、うちの料理人達の料理はすごく美味しいわよ? 食べられる時に食べておかないなんてもったいないわ」
そう言って私はふかふかの白パンを手に取ると手で小さく千切り一口食べる。
「ほら、毒なんて入ってないったら」
公爵令嬢自ら毒味だなんて、こんなサービス普通しないわよ? と私が笑ったところで、
「……今度は誰を殺せばいい?」
抑揚のない声がそう聞いた。
「え?」
私は空色の瞳を瞬かせ発せられた言葉に驚く。
「お前ら金持ちはワンパターンなんだよ、やり方が。こんなもので手懐けて、優しく耳障りのいい言葉で汚れ仕事を押し付けて、俺らから全部搾取しやがる」
誰も信じていない目。
私とそんなに年が変わらないはずなのに、どれだけ地獄を見てきたらこんな冷たい雰囲気を纏うようになるのだろう。
何も信じず、誰からも愛されず、誰も愛せないセドリック。
そんな彼の心を救えるのは、きっとヒロインだけなんだろう。
慈悲深く、誰でも惹きつける優しさで、根気強く攻略対象と向き合って。
攻略対象の心を癒す聖女様。
だけど残念ね。ここにいるのは聖女じゃなくて、悪役令嬢なのよ!
ふっと、私は悪役令嬢らしく意地悪げな笑みを漏らすと、
「あら、随分な口の利き方。躾が必要みたいね」
フォークを手に取り小さな一口サイズのスパニッシュオムレツを刺してそのままセドリックの口に突っ込む。
驚いた顔をしたセドリックは、だけど吐き出すことはなく素直に咀嚼する。
まぁ、吐き出そうなんて思うわけないわよね。だって公爵家のごはんは本当に美味しいもの。
「じゃあお望み通り分かりやすく言ってあげる。この私が食べなさいって言ってるの。残したら許さないわ」
いつも通り尊大で傲慢に。
「プライドで空腹が満たせるの? 1ミリも役に立たないなら捨ててしまいなさい、そんなもの」
私は悪役令嬢らしく言葉を紡ぐ。
私には、こんなやり方しかできないから。
「命令です、私の仕事の依頼内容を聞きたいならまず食べなさい」
と私からビシッとフォークを向けられたセドリックは、驚いた顔をしたあとおずおずとそれを受け取る。
「マナーなんて気にしなくていいわ。どうせ、ここには私しかいないのだから」
手でもスプーンでも食べやすいのを使いなさいと私が言うと不服そうな顔をしながらもセドリックは大人しく頷く。
最初は渋々といった感じだったのに、一度温かい食事が喉を通ったあとは無心でセドリックは食事に手を伸ばし出す。
「ふふ、いい子」
そんなセドリックにホッとして私はその光景を頬杖をつきながら見守った。
と私に言っていたのは前世で私にエタラブを勧めた友人だ。
『王子様を狙って王宮に潜りこむ暗殺者なんだけど、乙女ゲームなのに2人のやり取りにキュンキュンし過ぎて別の何かに目覚めそうになる〜。もちろん、ヒロインとの絡みと切ない3角関係がっ』
などと熱く語っていたなぁと今更ながら思い出す。
暗殺者ルートは王子ルートの選択によって途中で分岐発生し、なおかつ本当にヒロインと結ばれたかはエンディングまで分からないという代物。
攻略条件がかなり難しいけど、その分ファン心理をガッツリ捉えたそのストーリーは課金の価値ありとのこと。(前世の友人談)
隠しキャラの攻略は乙女達の義務らしい。
そんな乙女達を沼に落としまくっていた彼、セドリック・アートは現在私に有無を言わさず公爵家に連れて来られ、侍女達にピカピカに磨かれた後、温かい食事を前に息を呑んでいた。
「どうぞ、召し上がってちょうだい」
勧められたセドリックは息を呑むだけで、手を伸ばさない。
「うーん、お腹空いてるのよね? 消化にいいモノを用意したのだけれど、もっとガッツリした食べ物の方がよかった? お肉とか」
ガリガリに痩せていて全身傷だらけだったセドリックには、とりあえずお兄様特製のポーションをぶっかけまくったので怪我は治っているはず。
空腹のはずなのに食事を前に手を出さないセドリックの気持ちが分からず、育ち盛りの男の子向けのメニューじゃなかったかしらと私は首を傾げる。
「自慢するけど、うちの料理人達の料理はすごく美味しいわよ? 食べられる時に食べておかないなんてもったいないわ」
そう言って私はふかふかの白パンを手に取ると手で小さく千切り一口食べる。
「ほら、毒なんて入ってないったら」
公爵令嬢自ら毒味だなんて、こんなサービス普通しないわよ? と私が笑ったところで、
「……今度は誰を殺せばいい?」
抑揚のない声がそう聞いた。
「え?」
私は空色の瞳を瞬かせ発せられた言葉に驚く。
「お前ら金持ちはワンパターンなんだよ、やり方が。こんなもので手懐けて、優しく耳障りのいい言葉で汚れ仕事を押し付けて、俺らから全部搾取しやがる」
誰も信じていない目。
私とそんなに年が変わらないはずなのに、どれだけ地獄を見てきたらこんな冷たい雰囲気を纏うようになるのだろう。
何も信じず、誰からも愛されず、誰も愛せないセドリック。
そんな彼の心を救えるのは、きっとヒロインだけなんだろう。
慈悲深く、誰でも惹きつける優しさで、根気強く攻略対象と向き合って。
攻略対象の心を癒す聖女様。
だけど残念ね。ここにいるのは聖女じゃなくて、悪役令嬢なのよ!
ふっと、私は悪役令嬢らしく意地悪げな笑みを漏らすと、
「あら、随分な口の利き方。躾が必要みたいね」
フォークを手に取り小さな一口サイズのスパニッシュオムレツを刺してそのままセドリックの口に突っ込む。
驚いた顔をしたセドリックは、だけど吐き出すことはなく素直に咀嚼する。
まぁ、吐き出そうなんて思うわけないわよね。だって公爵家のごはんは本当に美味しいもの。
「じゃあお望み通り分かりやすく言ってあげる。この私が食べなさいって言ってるの。残したら許さないわ」
いつも通り尊大で傲慢に。
「プライドで空腹が満たせるの? 1ミリも役に立たないなら捨ててしまいなさい、そんなもの」
私は悪役令嬢らしく言葉を紡ぐ。
私には、こんなやり方しかできないから。
「命令です、私の仕事の依頼内容を聞きたいならまず食べなさい」
と私からビシッとフォークを向けられたセドリックは、驚いた顔をしたあとおずおずとそれを受け取る。
「マナーなんて気にしなくていいわ。どうせ、ここには私しかいないのだから」
手でもスプーンでも食べやすいのを使いなさいと私が言うと不服そうな顔をしながらもセドリックは大人しく頷く。
最初は渋々といった感じだったのに、一度温かい食事が喉を通ったあとは無心でセドリックは食事に手を伸ばし出す。
「ふふ、いい子」
そんなセドリックにホッとして私はその光景を頬杖をつきながら見守った。