追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「言いたいのはそれだけかしら? 私これでも忙しいのだけど」

 そろそろ引き時ね、とくるりと踵を返せば、

「聖乙女を侮辱しておいて、謝りもせず逃げる気か!?」

 そう吠える声が響く。
 聖乙女、この世界で神様に愛された子の愛称に私は思わず満面の笑みを浮かべそうになったのをぐっと堪える。
 ダメよ、リティカ。こんなところで聖乙女のファンだなんて語ったら悪役令嬢感台無しと自分を嗜めて、

「本人の文句以外受け付ける気ないわ。聖乙女の騎士(ナイト)を気取るなら鍛え直して出直してらっしゃい?」

 はぁ、とこれみよがしにため息を吐く。

「貴様ぁぁあ!!」

 私の態度にブチギレたらしいモブその1は三下の悪役のようなセリフとともに、攻撃魔法を詠唱し火魔法を私に放つ。
 だけど、その攻撃が私に届くことはなかった。

「お嬢、いつまで遊んでいるんですか?」

 呆れたような声がかかり視線を向ければ、片手で貴族令息を地面にめり込ませた私の専属執事兼護衛のセドリック・アートがそこにいた。

「ちょ、セド!! やり過ぎよ!? 死んじゃったらどうするの?」

 ああ、もうっ! と駆け寄る私に、

「お嬢に逆らう人間は全員処刑されればいいと思います」

 真顔でサラッと怖い事を宣いやがった。

「セド、あなたって子は」

 私は完全に意識を失くして転がっている生徒達を見回し、はぁ、とこれみよがしにため息をつく。
 しまった。セドが来てボコボコにしてしまう前に生徒達には悪役令嬢ムーブをかまして手を引いてもらおうと思ったのに、遅かったか。

「……スイ、来てちょうだい」

「きゅきゅーい」

 私がぽそっと呼べば、セドの胸ポケットからスイが勢いよく飛び出して、私の手のひらに乗る。
 はぁ、この可愛いスライムのぷにぷに感。たまんないわぁ〜と私は可愛いスイを愛でる。

「窮屈な思いさせてごめんね〜。良い子で待ってた?」

 ふふっと私が指でつつくと、当然だぜとばかりにスイは高らかと鳴いた。

「スイ、悪いんだけどセドが怪我させちゃったからこの人達にポーションをぶっかけて保健室前に転がして置いてもらえる?」

「きゅゆ!」

 任せろとばかりに元気に鳴いたスイに私は私の失敗ポーションをいくつか渡す。
 するとスイは嬉しそうにそれらを飲み込み、満足気に鳴いたあと令息達を飲み込んで消えた。
 初めて生成した日から約6年。
 なんて立派なスライムに成長したのかしら、と我が子のように可愛いがっているスイの成長ぶりに感動しつつ、私はセドに視線を向ける。

「セド、ここは学園よ? わざわざ追いかけて来なくても大丈夫なのに」

「そういうわけには参りません。お嬢は高頻度で絡まれますし、セザール様からも側を離れるな、と仰せつかっておりますので。それに俺もお嬢に突っかかってくる奴らを根絶やしにしたいと常々思ってますんで」

 胸に手を当てキリッとした顔で言い切るセドリック。
 うん、スチルとして切り取りたい程かっこいいんだけども。

「あなたってば、すごく良い笑顔でなんて物騒な事を言ってるのかしら」

 毎日こうだとさすがに困ってしまう、と私は苦笑する。
 何がどうしてこうなった案件。
 本来なら隠しキャラとして登場し、暗殺者ルートとしてヒロインと恋仲になるはずのセドは、時を経て何故か悪役令嬢の執事になってしまった。
 しかも何でかこの6年の間にリティカ強火担に成長。今じゃすっかり悪の手先だ。
 ……悪の手先って点では暗殺者と変わらないかもしれないけど。
 暗殺者ルートは潰れたけども、果たしてコレは良いんだろうか。うーん、悩ましい。

「ところでお嬢。本日はお茶会の日でしょう? 王太子殿下がお待ちでは?」

「はっ、本当ね! 今すぐ行かなくちゃ」

 セドに促された私は、訓練用の剣を渡し、

「あ、多分帰り遅くなるから。お兄様のこと誤魔化しておいて」

 ついでにお兄様対応も押し付けて走り出した。
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