追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「ねぇ、リティー。せっかくなら、一緒に撮らない?」
はぁ、今日もいい画が撮れたと満足気な私にロア様がそう尋ねる。
「一緒、に?」
驚いた私は空色の瞳を瞬かせ、少し間を置いてからゆっくり首を振る。
「ごめんなさい、私"撮る専"なので!」
攻略対象やヒロインならともかく、悪役令嬢のスチルなんてどこにも需要ないでしょっと私は内心で苦笑する。
ましてやロア様とツーショットなど恐れ多過ぎる。
「私ばかり撮られては不公平だと思わないか?」
むぅとちょっと拗ねた顔をするロア様も可愛い。
私的にこれ以上にない被写体なのだけど、一人で連写されるのは嫌なのかしら、と思った私ははたと名案を思いつく。
「あ、誰かと一緒に写真撮りたいならお兄様なんてどうです?」
私、天才かもしれないわ。
攻略対象×攻略対象。淑女達の黄色悲鳴確実のいいスチルが収められること間違いなし! と自信満々に提案したのだけど。
「……それは、誰得なんだろうか。……うん、やっぱりいい。聞きたくない」
私が目を輝かせながらプレゼンボードを取り出して需要について説明するより早くロア様に却下された。
お茶を飲みながら一通り近況を話した後、
「今日は、リティカに大事な話があるんだ」
とロア様が切り出した。
「なんでしょうか?」
私は改まったその態度に緊張しながら尋ねる。
「今度の精霊祭。聖乙女が精霊と神への祈りを捧げる事になっただろう。だから、私がその後の舞踏会で彼女をエスコートする事に決まった」
私はロア様の言葉を反芻し、何度も空色の目を瞬かせる。
「そう、ですか」
精霊祭、とはこの学園で毎年行われるイベントで、その年の入学試験で最も優れた魔法の成績を納めた女子生徒が、その年の代表として精霊と神に祈りを捧げる厳かな儀式だ。
そしてその誉ある代表を務めるのがこの世界のヒロイン、ライラちゃんなのだ。
ちなみに悪役令嬢である私との絡みはまだないのだけれど、ライラちゃんの無双ぶりは私の耳にも入って来ている。
はぁぁぁ〜ライラちゃんの祈りを生で見られるなんて!!
マジで転生して良かった。どうしよう、当日は映像記録水晶何個設置すればいいかしら?
なんて内心でウキウキしている私に、
「それで、今回のファーストダンスは彼女と踊る事になったんだ」
ロア様は静かに告げる。
私は誠実に事実を伝えてくれようとするロア様のその瞳に息を呑む。
ライラちゃんが"聖乙女"の愛称で呼ばれるようになった時から、そうなんじゃないかとは思っていた。
だって学園中ライラちゃんが光魔法でロア様を助けた、2人の出会いで話題が持ちきりだったのだから。
「けど、リティカがもし嫌だと言うなら」
「何を言っているのです?」
私は出来る限り穏やかな声で、ロア様の言葉を遮る。
この人はどこまでも私に優しい。だから、これ以上を言わせてはいけない。
「……リティカ」
困ったような声で、ロア様が私を呼ぶ。
本来、ファーストダンスとは婚約者と踊るものだ。それを婚約者である私を差し置いてライラちゃんと踊るという。
それはつまり。
「ロア様は、私を学園中の笑い者にするおつもりですか?」
私の目論み通り、王子ルートに入った、ということだ。
「舞踏会、といっても公のモノではなく、あくまで学園内でのこと。この程度のこと許容できなければ、私学園中の皆様に笑われてしまいますわ。嫉妬深く婚約者を束縛する自信のない女だ、って」
ふふっと私はロア様の濃紺の瞳を見て笑う。
「ぜひエスコートして差し上げてくださいませ。ライラさんは平民の出身。夜会もダンスも慣れてないでしょうから」
私は爽やかなミントティーを飲みながら、言葉を紡ぐ。
「それに、彼女は聖乙女。将来の聖女候補であり希少な光魔法の使い手です。今後の事を思えば、ロア様といる事で立場を固めるのは彼女にとってもロア様にとっても良い事だと思いますよ」
「……リティカは、それでいいの?」
とロア様が静かに尋ねる。
ええ、もちろん! とここは前のめり気味に元気よく肯定するところだ。
なのに、口を開く前にズキっと、胸にちいさなトゲでも刺さったかのような痛みを覚える。
ズキっ?
ん? と私は首を傾げる。
私はずっとこの日を待っていた。
だから、とても嬉しい、はず……よね?
「私の事は気になさらないでください。王太子ともあろう方がレディに恥をかかせてはなりませんよ?」
なのに、なんで私は自分の言葉で胸が軋むんだろう?
せっかく、推しと推しの晴れ姿が見られるというのに。
「ああ、お茶がなくなりましたね。本日はコレでお開きといたしましょうか」
不思議に思いつつも自分に追放フラグが立った事を確信した私は、何か言いたげなロア様に淑女らしく礼をして本日のお茶会を終了させた。
はぁ、今日もいい画が撮れたと満足気な私にロア様がそう尋ねる。
「一緒、に?」
驚いた私は空色の瞳を瞬かせ、少し間を置いてからゆっくり首を振る。
「ごめんなさい、私"撮る専"なので!」
攻略対象やヒロインならともかく、悪役令嬢のスチルなんてどこにも需要ないでしょっと私は内心で苦笑する。
ましてやロア様とツーショットなど恐れ多過ぎる。
「私ばかり撮られては不公平だと思わないか?」
むぅとちょっと拗ねた顔をするロア様も可愛い。
私的にこれ以上にない被写体なのだけど、一人で連写されるのは嫌なのかしら、と思った私ははたと名案を思いつく。
「あ、誰かと一緒に写真撮りたいならお兄様なんてどうです?」
私、天才かもしれないわ。
攻略対象×攻略対象。淑女達の黄色悲鳴確実のいいスチルが収められること間違いなし! と自信満々に提案したのだけど。
「……それは、誰得なんだろうか。……うん、やっぱりいい。聞きたくない」
私が目を輝かせながらプレゼンボードを取り出して需要について説明するより早くロア様に却下された。
お茶を飲みながら一通り近況を話した後、
「今日は、リティカに大事な話があるんだ」
とロア様が切り出した。
「なんでしょうか?」
私は改まったその態度に緊張しながら尋ねる。
「今度の精霊祭。聖乙女が精霊と神への祈りを捧げる事になっただろう。だから、私がその後の舞踏会で彼女をエスコートする事に決まった」
私はロア様の言葉を反芻し、何度も空色の目を瞬かせる。
「そう、ですか」
精霊祭、とはこの学園で毎年行われるイベントで、その年の入学試験で最も優れた魔法の成績を納めた女子生徒が、その年の代表として精霊と神に祈りを捧げる厳かな儀式だ。
そしてその誉ある代表を務めるのがこの世界のヒロイン、ライラちゃんなのだ。
ちなみに悪役令嬢である私との絡みはまだないのだけれど、ライラちゃんの無双ぶりは私の耳にも入って来ている。
はぁぁぁ〜ライラちゃんの祈りを生で見られるなんて!!
マジで転生して良かった。どうしよう、当日は映像記録水晶何個設置すればいいかしら?
なんて内心でウキウキしている私に、
「それで、今回のファーストダンスは彼女と踊る事になったんだ」
ロア様は静かに告げる。
私は誠実に事実を伝えてくれようとするロア様のその瞳に息を呑む。
ライラちゃんが"聖乙女"の愛称で呼ばれるようになった時から、そうなんじゃないかとは思っていた。
だって学園中ライラちゃんが光魔法でロア様を助けた、2人の出会いで話題が持ちきりだったのだから。
「けど、リティカがもし嫌だと言うなら」
「何を言っているのです?」
私は出来る限り穏やかな声で、ロア様の言葉を遮る。
この人はどこまでも私に優しい。だから、これ以上を言わせてはいけない。
「……リティカ」
困ったような声で、ロア様が私を呼ぶ。
本来、ファーストダンスとは婚約者と踊るものだ。それを婚約者である私を差し置いてライラちゃんと踊るという。
それはつまり。
「ロア様は、私を学園中の笑い者にするおつもりですか?」
私の目論み通り、王子ルートに入った、ということだ。
「舞踏会、といっても公のモノではなく、あくまで学園内でのこと。この程度のこと許容できなければ、私学園中の皆様に笑われてしまいますわ。嫉妬深く婚約者を束縛する自信のない女だ、って」
ふふっと私はロア様の濃紺の瞳を見て笑う。
「ぜひエスコートして差し上げてくださいませ。ライラさんは平民の出身。夜会もダンスも慣れてないでしょうから」
私は爽やかなミントティーを飲みながら、言葉を紡ぐ。
「それに、彼女は聖乙女。将来の聖女候補であり希少な光魔法の使い手です。今後の事を思えば、ロア様といる事で立場を固めるのは彼女にとってもロア様にとっても良い事だと思いますよ」
「……リティカは、それでいいの?」
とロア様が静かに尋ねる。
ええ、もちろん! とここは前のめり気味に元気よく肯定するところだ。
なのに、口を開く前にズキっと、胸にちいさなトゲでも刺さったかのような痛みを覚える。
ズキっ?
ん? と私は首を傾げる。
私はずっとこの日を待っていた。
だから、とても嬉しい、はず……よね?
「私の事は気になさらないでください。王太子ともあろう方がレディに恥をかかせてはなりませんよ?」
なのに、なんで私は自分の言葉で胸が軋むんだろう?
せっかく、推しと推しの晴れ姿が見られるというのに。
「ああ、お茶がなくなりましたね。本日はコレでお開きといたしましょうか」
不思議に思いつつも自分に追放フラグが立った事を確信した私は、何か言いたげなロア様に淑女らしく礼をして本日のお茶会を終了させた。