追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
 全部自分のためだと言いながら、一人で背負い込もうとする女の子。
 あの日、俺を見つけ出してくれた彼女が誰かの喰い物にされる事がないように。
 ……なんて、偉そうな事は言わないが。

「誰かを使うような遠回しの事などしない。私が直接手を下してあげる」

 公爵令嬢で、王太子殿下の婚約者という立場上、お嬢の立ち振舞い一つでヒトの人生を左右する事がある。
 だけど、虐められている令嬢(誰か)を放置できないお嬢は、今日も誰かのために嘘をつく。(悪役のフリをする。)

「お嬢。いつ突っ込もうかなと思っていたんですが、セリフと行動が合ってない」

 ただし、自称悪役令嬢のうちのお嬢はまぁまぁポンコツなので、お嬢が楽しく毎日を送れるようにフォローしておこうと思う。
 結局のところ俺はお人好しでいつも元気なお嬢が目を輝かせながら楽しそうにしているのを見ているのが好きなのだ。

「か、勘違いしないで! 今から精霊祭の打ち合わせでロア様やお兄様にお会いするのでしょう? ドブネズミを高貴なお二人の前に出すわけにはいかないから整えただけなんだからぁ」

 口では冷たくあしらいながら、欲望のままに聖乙女を可愛くしたお嬢が捨て台詞を吐いてパタパタと走って行く。
 相変わらず、うちのお嬢は面白過ぎる。

「えーっと、行ってしまわれました」

 ぽかーんとお嬢の背中を見送った聖乙女ことライラ・マーシェリー嬢。

「コレ、どうしたらいいのでしょう」

 お嬢が彼女につけた花飾り(マーキング)にそっと触れたマーシェリー嬢はそう俺に尋ねる。
 俺はお嬢の撒き散らした諸々の物品を拾い集めながら、

「お嬢がくれるっていうなら遠慮なくもらっておけばいい。ついでに目につくところに付けておけば、アンタはお嬢のターゲットだって解釈した利口な女子からは絡まれなくなる」

 俺はそう助言する。
 メルティー公爵家の力は偉大だ。
 貴族令嬢の頂点に位置するお嬢から下賜されたモノを付けている相手に喧嘩を売ろうなんて奴はまずいない。

「ターゲット、ですか」

 翡翠の瞳を瞬かせ、

「なんていうか、こう。メルティー公爵令嬢って愉快な方ですね」

 またお会いしたいな、という彼女。
 お嬢に初回で良い印象を持つ人間は大抵聡明だ。
 さすがお嬢のお気に入り。

「まぁ、でも王子様のヤキモチにはご注意を」

 不思議そうに首を傾げる聖乙女にそういって、俺は生徒会室までの案内を申し出る。これ以上予定が押したら、セザール様が過労死してしまう。
 お嬢の色の花と香水を付けた彼女に王子様がどんな反応を示すのか……うん、あんまり考えたくないな。
 そんな事を考えながら、俺は生徒会室まで彼女を送ったのだった。
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