この結婚が間違っているとわかってる

『兄貴が結婚して次は俺への圧がすごい。ふらふらしていないでそろそろ実を固めろって親父に言われるようになった』
『そうなんだ』

小花は伊織の父親を思い浮かべる。真面目で優等生だった拓海とは違い、勉強はできたけれどやんちゃを繰り返していた伊織のことを彼の父親が常に心配していたことを幼馴染の小花は知っている。

それは今も変わらないのだろう。一企業の社長として成功しているものの女癖の悪さや朝まで飲み歩いているなど私生活がぐちゃぐちゃな伊織のことを気にかけているからこそ、早く家庭を持って落ち着いた生活を送ってほしいと父親は思っているのかもしれない。

その気持ちは理解できる。それと同時に伊織がそう簡単に結婚を選ぶような男ではないことも、彼と付き合いが長い小花は知っている。

『でも俺は結婚願望がない。ひとりの女に縛り付けられるのは性に合わないからな。適当な女と自由に遊んでる方が楽だろ』
『……相変わらず下衆な考え方だね』

小花が軽蔑するような視線を投げると、『なんとでも言え』と伊織が返す。

彼が女性関係にだらしがないのは学生の頃からだ。会うたびに違う女性を連れて歩いているのを小花は数えきれないくらい見掛けている。

同時に何人もの女性と関係を持っていると気付いたときは、いつか恨まれて刺されないかを本気で心配したほどだ。
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