この結婚が間違っているとわかってる
『それとも〝俺は小花が好きだけど〟って言った方がよかった?』
ムスッとして黙り込んでいた小花の顔を伊織が高い背を屈めて覗き込んでくる。口元を緩めて意地悪く笑った端正な顔に不覚にも小花はドキッとした。
(本当に顔だけはいいんだから)
性格がもっとマシなら正真正銘のイケメンなのにもったいないと思いながら、小花は伊織の胸に両手をついて自分よりも大きな体を押し返した。
『そんなわけないでしょ。伊織に好きなんて言われたら困るからやめて』
『なんで困んの?』
手首を掴まれてぐいっ引き寄せられた小花は驚いた顔で伊織を見た。
『ちょ、ちょっとなにするのよ』
『俺に好きって言われたらなんで困るんだよ』
『なんでって……』
小花は伊織をじっと見つめ返した。
小花は伊織が嫌いで、伊織も小花が嫌いだ。さっきそう言い合ったばかりだし、子供の頃から顔を合わせれば口喧嘩を繰り返していたのだからお互いに嫌い合っているのなんて口に出さなくても知っている。
それなのにまさか好きだなんて言われたら驚くし、伊織とどう接していいのかわからなくなる。
小花が黙って伊織を見つめていると手首を掴まれていた手の力が抜けた。
『お前は兄貴しか見てねぇんだな』
そう言って伊織は小花から体を離すと壁に背中を預ける。首を後ろに逸らせて天井を見つめる伊織の表情は小花から見えない。