この結婚が間違っているとわかってる
『それで、俺と結婚すんの?』
尋ねられて小花は下唇をぎゅっと噛みしめながら考えた。
(そうだよ、伊織。私は拓海くんしか見えない。だからこの先どんな形でもそばにいられるなら、それがどんな方法でもすがりつくんだから)
『するよ、私。伊織と結婚』
拓海が地元を離れたときも追いかけて東京に出てくるほど離れるのが嫌だった。子供の頃からずっと近くにいる大好きな拓海のそばにこれからもいたい。好きじゃない人の妻になるのだとしても――。
『アホだよな、お前。兄貴のためにこんなバカみたいな選択するなんて』
伊織の手が小花の頭に触れてぽんぽんと弾む。小花はその手を思い切り振り払った。
『提案してきたのは伊織でしょ』
それなのにアホだのバカだの言うなんてやっぱりからかわれていたのだろうかと小花は伊織を睨みつけた。
そんな小花を見て伊織が口元を緩めてふっと笑う。
『そうだよ。俺が提案したんだからお前の味方をしてやる。小花はずっと兄貴を好きでいればいい』
『伊織に言われなくたって私はずっと拓海くんが好きに決まってるでしょ』
寄り掛かっていた壁から背中を外した伊織が小花に背中を向けた。
『知ってるよ。そんなのずっと前からな』
会場の中心へと向かって歩いていく伊織の背中を小花は見つめる。彼が向かった先は皆に祝福を受けて幸せそうな拓海と咲のところだった。