この結婚が間違っているとわかってる
「そろそろ時間ですよね。行きましょうか」
急きょインタビューの担当が変更になったことは事前に連絡済みだ。倉橋は小花の背中に手を添えると、エスコートでもするかのように営業部のフロアに足を踏み入れて、その先にある応接室へと向かう。
使用許可は、もともとインタビューをする予定だった広報課の先輩がすでに取ってある。
先に小花が入室すると、あとから入ってきた倉橋が扉を閉めた。途端に営業部のフロア内のがやがやとした喧騒が遮断されて静寂に包まれる。
テーブルを挟んだ対面のソファにそれぞれ腰を下ろした。
「今日はお忙しいところ時間を割いていただきありがとうございます」
小花はぺこりと頭を下げた。顔を上げると倉橋が苦笑を浮かべている。
「いえ。こういったインタビューを受けるのは初めてだからうまく答えられるかわからないけど。よろしくお願いします」
座ったまま背筋を伸ばして丁寧にお辞儀をした倉橋を小花は思わず見つめてしまった。
(やっぱり拓海くんに似てる)
倉橋と顔を合わせたときから思っていたが、彼の包み込むような穏やかな雰囲気が拓海とよく似ている。
顔立ちは違うも倉橋の相手を思いやるような優しげな話し方や動作が拓海と被るのだ。