この結婚が間違っているとわかってる
「武藤さん?」
「あ、いえ。すみません」
じっと見つめる小花の視線を不思議に感じたのだろう。倉橋に声を掛けられて小花はハッと我に返った。
なんでもないですと、首を横に振って誤魔化す。
(しっかりしなきゃ……!)
目の前に座っているのは拓海ではなくて倉橋だ。
「さっそくインタビューに入らせていただきます」
ボイスレコーダーをテーブルに置いてからバインダーを広げる。
質問はあらかじめ用意してあり、事前に倉橋にも伝えてあるとインタビューをする予定だった先輩から聞いている。
質問内容がわかっているのだから受け答えはスムーズにいくはずだ。
「では、最初の質問ですが――」
「ちょっと待って」
倉橋が小花の言葉を遮った。そして、テーブルの上に置いてあるボイスレコーダーを手に取る。
「録音ボタンが押されていなかったので押しますね」
「わっ、本当だ。すみません」
「いえいえ」
うっかりしていた。
あのままだったら質問に対する倉橋の答えを録音し損ねるところだった。
焦ってしまった小花だけれど、その後は失敗をすることもなく無事に倉橋へのインタビューを終えた。