この結婚が間違っているとわかってる
伊織とは今さら気を遣うような間柄ではないので、一緒に暮らしていても苦に思ったことが小花には一度もない。
くだらないことで口喧嘩はしょっちゅうだけど、それも子供の頃からのことなので挨拶と同じようなものだ。
お互いに怒りが長続きしないタイプなので、散々言い合ってしばらく経つと忘れて普通に話しかけている。
伊織との共同生活はそれなりにうまくいっていた。
「今日も女の子と遊んでるのかな」
伊織はまだ帰宅していない。
ひとりで適当に夕食をすませてからお風呂に入った小花は、念入りに肌の手入れをすませたあとはリビングで指先のネイルを新しいものに変えていた。
塗り終えてから乾かしているとテーブルの上のスマートフォンが短く振動する。
メッセージが届いたらしい。確認すると拓海からで小花のテンションがぐんと上がった。
拓海は一週間ほど海外出張に出ていて昨日の夜に日本へ帰国したそうだ。お土産を買ってきたので、急だけど今から渡しに行ってもいいかを問うメッセージだった。
もちろん大歓迎なので小花はすぐに返信をした。再び届いた拓海からのメッセージには≪お土産楽しみにしていて≫とあったけれど、小花が楽しみなのはお土産ではなくて拓海に会えることだ。