この結婚が間違っているとわかってる
「わかった。あと少しね」
美波をこのままひとりで帰すのもかわいそうだと思った小花は、もう少しだけ彼女に付き合うことにした。
たっぷりと食べたし、ほどよくお酒も飲んだ。ふたりともお腹はだいぶ膨れているが、それでもちょっとしたスイーツなら入りそうだ。
ちょうど近くに全国チェーンのドーナツ屋がある。店内飲食用の座席も空いていたので入店することにした。
それぞれドーナツとカフェオレを頼んでから席に着く。
「ごめんね小花。つい引き止めちゃったけど帰り時間大丈夫?」
ドーナツをかじろうとしていた美波が手を止めて小花を見た。
「小花は私と違って既婚者なんだから。しかもまだ新婚。旦那さん家で待ってるよね」
「ううん、大丈夫」
小花は軽く笑顔を作って首を横に振った。
「どうせあいつも今日は帰りが遅いだろうし」
「そっか、金曜だもんね。明日は休みだし旦那さんも飲みに行ってるんだ」
「たぶんね。それに新婚といっても私と伊織は子供の頃からの仲だから、今さらって感じだよ」
同じ歳の夫の伊織とは幼馴染の関係だ。お互いの父親が同じ会社で働いていたこともあり社宅の隣同士に住んでいた。小花にとって物心ついたときから常にそばにいたのが伊織だった。
そんな彼と結婚をしたのは半年前。交際期間ゼロ日のスピード婚だった。