この結婚が間違っているとわかってる
小花は慌てて席を立ってキッチンに向かうとふきんを持って再び戻った。それを使ってテーブルにこぼれた黒い液体を拭き取る。
「ごめんね、小花ちゃん」
咲が申し訳なさそうに頭を下げる。幸いにもコーヒーがこぼれたのはテーブルだけで、ふきんで拭き取るときれいになった。
申し訳なく思っているであろう咲を安心させるため小花は笑顔を作る。
「気にしないでください。それよりもお洋服は汚れていないですか」
「ええ、大丈夫。本当にごめんなさい」
小花はコーヒーの染みがついた布巾を持ってキッチンに向かった。
軽く洗ってからコーヒーの匂いがついてしまった自身の手も水で洗い流す。
ダイニングテーブルの様子を窺うと、カップを落として動揺している咲の背中を拓海が優しく撫でながら声を掛けて落ち着かせている。
そんなふたりから小花は視線を逸らした。
拓海は優しい。そんな彼を小花は好きだけど、その優しさが自分以外の人に向けられているのを見るのはつらい。
胸がきゅっと痛む。でも、この痛みも承知の上で拓海のそばにいると決めたのだ。
拓海の妻は咲だ。小花は拓海にとって幼馴染で、今は弟の妻。