この結婚が間違っているとわかってる
自分にそう言い聞かせたとき、玄関から扉の開く音が聞こえた。少ししてリビングに姿を現したのは伊織だ。
もうだいぶ遅い時間だが仕事が長引いていたのか、それとも女性と会っていたのだろうか。後者の場合は帰宅しないことが多いのでおそらく前者。仕事で遅くなったのかもしれない。
伊織の職場は服装が自由なので社長である伊織も普段はカジュアルな服装で出勤している。けれど、今日は大事な会議でもあったのかスーツ姿だ。
伊織はダイニングテーブルにいる拓海と咲に気づいて視線を向けた。
「来てたのか」
素っ気なく言うと、首元のネクタイを緩めながら小花のいるキッチンに入ってくる。
冷蔵庫から五百ミリサイズのペットボトルを取り出して水を飲んでいる伊織に拓海が声をかけた。
「こんな時間まで仕事か」
「ああ。兄貴たちはなんの用?」
伊織は飲み干したペットボトルを片手でぐしゃりと潰してからゴミ箱に投げ捨てた。それから、拓海たちのいるダイニングテーブルに向かい、椅子に腰を下ろすと、クッキーの入っている缶を見つけて手に取った。