この結婚が間違っているとわかってる
「出張土産を持ってきたのか。よかったな、小花」
伊織は小花をちらっと見てから意地悪そうに笑った。
この場合の〝よかったな〟はお土産に対するものではなくて、〝大好きな拓海がうちに来てくれてよかったな〟と小花のことをからかう意味も含まれているのだと気付く。
そうだねと素っ気なく返して、小花もダイニングテーブルに腰を下ろした。拓海の隣がいいけど伊織の隣だ。
コーヒーをこぼして動揺していた咲は落ち着いてる。でもどこか元気がないのは自分の失敗に落ち込んでいるからだろう。
父親が会社を経営している咲は生粋のお嬢様だ。小花の勝手なイメージだが、そういった女性は気品があっておっとりしている半面、プライドが高く高飛車な一面もあると思っていた。
でも、拓海から紹介されて初めて話をしたときの咲は、小花の中のお嬢様のイメージを一瞬で払拭させるくらいに感じの良い女性だった。
今もコーヒーをこぼしてしまったことで落ち込んでいるようだ。そんなに気にしなくていいのにと、小花は咲が気の毒に思えた。