この結婚が間違っているとわかってる

そのあと四人で少し話をしてから拓海と咲は同じマンションの別の階にある自宅へと帰っていった。

伊織がソファに移動してテレビのリモコンを手に取り電源を入れる。特に観たいものはなかったようで適当なドラマを見始めた。

小花はダイニングテーブルに置いたままのマグカップを持ってキッチンに向かった。

「残念だったな小花。兄貴がひとりで来てたらふたりきりで会えたのに、あの女もついてきて」

拓海から貰ったばかりのクッキーを味わうこともなくむしゃむしゃと食べている伊織に小花は不満気な顔を見せる。

「別に。私は拓海くんに会えるなら咲さんが一緒でもいいし」

そうは言ったが、本当は拓海とふたりで会いたかった。咲も一緒に来ているとわかったときのがっかりした気持ちを小花は思い出す。それを見透かすように伊織が鼻で笑った。

「いい子ぶんなよ。あの女よりもお前の方が兄貴を想う気持ちは強いんだろ。奪ってやろうとか思わないのか」
「思わない」

小花はきっぱりと答えた。

「人のものを奪うのは泥棒と一緒。拓海くんのことは好きだけど、咲さんから取ろうとは思ってない。私は泥棒にはなりたくない」
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