この結婚が間違っているとわかってる

もしも拓海に手を出せば不倫になる。子供の頃の経験から、小花はそれだけはしたくないと思った。

妻がいるのに別の女性と関係を持って子供までできてしまった父と同じようなことはしたくないし、拓海にもしてほしくない。

「私は拓海くんが幸せならそれでいい」

きれいごとだと思われてしまうけど、それが小花の本心だ。好きな相手には幸せでいてほしい。

それに小花は咲のことも嫌いにはなれなかった。彼女の性格がもっと悪ければ憎むこともできたのに、咲が普通に良い人だから嫌いになれない。

しかし、そんな小花の気持ちは伊織には理解ができなかったらしい。

「俺なら奪いたいって思うけどな」

不満そうな鋭い声がリビングに響く。

「本気で好きならなにがなんでも自分のものにしたいって思うだろ」

伊織の横顔はどこか怒っているようにも見える。わりと短気なところがある彼のことだ。きれいごとを言う小花に対して腹が立っているのかもしれない。

でも、伊織にしては珍しく感情を込めた話し方に、もしかしたらさっきの言葉には彼の強い気持ちが隠れているような気もした。
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