この結婚が間違っているとわかってる
「伊織にもそう思う相手がいるの?」
経験からくる言葉だったのだろうか。そう思って尋ねたけど、伊織にはあり得ないと小花は自分の中で答えを出した。
むかしからやたらとモテる伊織の女性との付き合い方は来る者拒まず去る者追わず、だ。
告白されてすぐに付き合うけれど長続きせずにいつの間にか終わりを迎えている。同時にふたりと付き合うなど、とにかく女性関係にはだらしがない。
そんな男が一途に誰かを想っているはずないと思ったし、伊織だったら意中の女性をすぐに手に入れることができるはず。
小花のように叶わない恋などしたことがないのだろう。
「……いるよ、俺にも」
けれど、伊織から聞こえてきた声は小花の予想とは違っていた。
「そう思う相手ならここにいる」
テレビ画面を見つめながら言った伊織の言葉に小花はきょとんと目を丸くする。
「ここって……」
つまり伊織が本気で好きで、なにがなんでも手に入れたいと思う相手は今この場所にいる。
でも、リビングには伊織と小花のふたりしかいない。他には誰もいないのだから、もしかして小花のことを指しているのだろうか。
(いやいやいや。待って待って。絶対に違うから)