この結婚が間違っているとわかってる
小花は焦りながらそれは絶対にあり得ないと首を横に振った。
一方の伊織は小花を動揺させるような発言をしておきながらすました顔でテレビを見ている。彼の視線の先にはドラマが流れていて、主演を務める若手人気女優が映っていた。
(もしかして伊織の好きな人って……)
テレビ画面をじっと見ている伊織を見て小花は気がついた。
「さすがに伊織でも芸能人は無理じゃないかな」
「は?」
小花の言葉に伊織が振り返る。呆れたような表情をしているのは、自分の想い人がバレたことを小花に誤魔化すためだろうか。
「でも最近は社長と結婚する女優もいるから、もしかしたら伊織にもチャンスはあるかもよ。交流の場を広げれば出会いがあるかも」
「お前なに言ってんの」
氷のような冷たい視線を向けられて小花は首を傾げる。
「なにって、伊織はあのドラマに出ている女優が好きなんでしょ」
先ほどの伊織の言葉を思い出す。
好きな相手ならここにいると言ったときの伊織の視線はテレビ画面を見つめていた。だから、そのときに流れていたドラマに出てくる人気女優を本気で好きなのだと思ったけれど。
「なんでそうなんだよ」
伊織が片手でくしゃくしゃと髪をかき乱す。