この結婚が間違っているとわかってる
ソファから立ち上がると、キッチンにいる小花のところに大股で歩いてきた。目の前でぴたりと足を止めた伊織の表情からはなぜか機嫌の悪さが伝わってくる。
伊織の指が小花の鼻をきゅっとつまんだ。
「い、いひゃい」
手加減なしに鼻をつままれた小花は痛くて涙目になってしまう。どうしていきなりこんなことをするのだろうと、伊織の行動の意味がわからない。
片想い相手がバレて恥ずかしいからその照れ隠しだろうか。だとしたらやることが小学生レベルだ。
「このアホ女」
「なんで!? 私は伊織の恋の応援をしただけなのに」
「すんな。余計なお世話だ」
伊織の指が小花の鼻から離れた。もうつままれてはいないがひりひりと痛む。
「お前には俺の気持ちなんて一生わかんねぇよ」
背中を向けた伊織はそのままずかずかと歩き去っていき、開けた扉をパタンと強く閉めてリビングを出ていった。
ひとり残された小花はぼんやりとその場に立ち尽くす。けれど次第にむしゃくしゃしてきた。
「なにあの態度っ! 本当に性格が悪いんだから」
拓海とは真逆の性格だ。本当に兄弟なのだろうか。
(伊織の気持ちなんてわかるわけないじゃん。てか、わかりたくもない!)
小花はソファに移動すると投げ捨てられているリモコンを手に取る。伊織がつけっ放しで出て行ったテレビをプツンと消した。