この結婚が間違っているとわかってる
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翌朝、目を覚ました小花がリビングに向かうとキッチンには伊織が立っていた。ワイシャツの袖をまくってフライパンを揺すっている。
「なに作ってるの?」
近付いて隣からそっと顔を覗かせる。どうやら卵焼きを作っているらしい。
「邪魔だ」
フライパンを持った伊織に肘でつつかれた。小花はごめんと謝って伊織から離れる。
「やっぱり伊織は料理が上手だね」
お皿には出来上がったばかりのふっくらとした卵焼きが乗っている。伊織が朝食用に作ったのだろう。
「食うか?」
「もちろん」
伊織の言葉に小花ははしゃいだ声で返事をした。
昨夜はこのキッチンで伊織に鼻をつままれたばかりだが、それについて小花はもうどうでもいいと思っている。
リビングの扉を強く閉めて、怒ったように出て行った伊織の態度も落ち着いていた。
伊織とは子供の頃からちょっとしたことで口喧嘩をしてしまうけど、ふたりともその怒りが長続きしない。翌日になると何事もなかったように元通りになっていることが多い。
だから今朝も昨夜のことについて小花はもうどうでもいいと思っているし、伊織も同じなのだろう。そうでなければ小花と一緒に朝食を取ろうとは思わないはず。