この結婚が間違っているとわかってる
「でも羨ましいな。幼馴染と結婚なんて憧れる。しかも伊織さんめちゃくちゃカッコいい上にIT企業の社長でしょ」
「社長といっても自分で立ち上げた小さな会社だよ」
理工学部出身の伊織は大学在学中に開発したウェブサービスがうまくいき、友人たちと一緒にIT関係の会社を立ち上げた。
伊織が当時暮らしていたアパートの部屋をオフィスにして始まった会社は、五年ほどが経った今では高層ビルが立ち並ぶ新宿のタワービルにオフィスを構えるまでに成長している。従業員数も増えて、確実に規模を拡大させていた。
だから先ほど小花は〝小さな会社〟と言ったけれど実際はそうではない。伊織の会社は年々業績を伸ばし続け、飛躍的に伸びている注目の会社だ。
その後も美波とお喋りを続けて、一時間ほど滞在してからドーナツ屋を出た。タクシーで帰宅する美波とは別れて、小花は駅に向かう。
東京の街はまだまだ賑やかで人が溢れている。小花の地元はこの時間だともうメインストリートにすらほとんど人は歩いていないだろう。
大学進学と同時に上京して八年が経つ。通いたかった大学が東京にあったから地元を離れたわけじゃない。片想い相手を追いかけて東京に出てきた。
その恋は叶わずに終わってしまったけれど。