この結婚が間違っているとわかってる
伊織は卵焼きの他にもみそ汁、焼き魚、ほうれん草を使った副菜、それにお米まで炊いていた。どれも二人分用意されているところを見ると、初めから小花の分も作っていたらしい。
結婚して一緒に住むようになってからキッチンに立つ時間は圧倒的に伊織の方が長い。
父子家庭で育った伊織は子供の頃から父親と拓海の分の食事を作っていたこともあり、自然と料理の腕が上がったのだろう。高校生の頃は自分でお弁当を持参していたのだから、もしかしたら料理が好きなのかもしれない。
一方で小花は料理が苦手だ。卵焼きなんて作ったことがないし、目玉焼きは真っ黒に焦がしてしまう。きっと料理のセンスがないのだ。それを認めてからはキッチンに立つのをやめた。
食事はコンビニやスーパーで買ってきたものがほとんどで、たまに伊織がついでに作ってくれる料理をありがたく頂いている。
今朝も、性格は悪いけど料理上手な伊織の美味しい朝食をお腹いっぱい食べて、小花は幸せな気持ちで出社した。
一日の仕事を終えて帰宅すると、マンションの近くで拓海を見掛けた。
「拓海くん!」
スーツ姿の背中に声を掛ける。振り向いた拓海が小花に気付いて足を止めた。