この結婚が間違っているとわかってる
(どうしよう。とっさに誘っちゃったけど)
そのとき玄関から扉が開く音が聞こえて伊織が帰宅した。疲れた体を引きずるようにリビングに入ってきた彼のもとに小花は駆け寄る。
「伊織、大変なの。私を助けて」
「帰宅早々うるせぇ」
伊織が両手で自分の耳を塞いだ。話を聞きたくなさそうな態度だが、そんなことはお構いなしに小花は伊織に詰め寄る。
耳を塞いでいても聞こえるように大きな声で話し掛けた。
「明日の夜、拓海くんがご飯を食べに来るの。料理を用意して待ってるって言ったんだけどどうしよう。私、なにも作れない」
「そりゃ大変だな」
キッチンに向かった伊織が冷蔵庫からペットボトルを取り出して水を飲む。小花は伊織の腕に両手を絡めてぎゅっと抱き着いた。
「そうだよ、大変なの。だから伊織が明日の夕食を作って。お願いします」
「却下。めんどくさい」
「でも伊織、料理好きでしょ」
「別に好きってわけじゃねぇよ。つか離せ」
くっつくなと伊織が自身の腕にしがみつく小花の両手を冷たく振り払う。