この結婚が間違っているとわかってる

初恋相手の顔を思い浮かべながら歩いていると、少し先に見知った男の姿を見つけて小花はふと足を止めた。

視線の先にいるのはドーナツ屋でも話題になった小花の夫――伊織だ。

スーツ姿の彼は通行人たちよりも頭ひとつ分背が高いのでよく目立つ。スラックスのポケットに両手を突っ込んで歩く伊織の隣にはモデル風の美人な女性がいた。

彼女は伊織の腕に自身の腕を絡めながら甘えるようにぴったりとくっつている。長身の伊織を見上げながらかわいらしくころころと表情を変えて話し掛けている様子から、伊織への溢れんばかりの好意を感じ取ることができた。

一方の伊織は一緒に歩いている女性にそこまで興味はないのだろう。彼女には見向きもせず、その表情からは生気が感じられない。

というよりも伊織は常に死んだような目をしているのでこれが通常モード。専門分野であるウェブ開発については優秀でも、子供の頃から伊織を知っている小花としては彼が愛想もなく性格もクズだというのを知っている。

それなのに伊織のまわりには男女問わず人が集まってくる。

きっとなにか強く惹きつけるものが彼にはあるのだろう。それと外見だろうなと小花は思う。
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