この結婚が間違っているとわかってる
「あんなに堂々と歩いていいのかよ」
先を歩いていたはずの伊織がいつの間にか小花の隣に立っていた。咲と男性を見て呆れたような表情を浮かべている。
「不倫するならもっとコソコソやればいいのに」
「不倫?」
小花は驚きから目を丸くして伊織を見た。
再びその視線を咲たちに戻したとき、今までよく見えなかった咲の隣を歩く男性の顔がはっきりと見えた。
「……あの人知ってる」
営業一課の倉橋だ。
どうして咲と一緒にいるのだろう。しかもあんなに親密に寄り添って。
「兄貴の嫁の不倫相手、小花の知り合い?」
「うん、同じ職場の人」
「マジか。世間は狭いな」
咲の不倫現場を目撃したというのに伊織の態度は落ち着いている。一方の小花は動揺して足が震えているというのに。
「……伊織、もしかして知ってた?」
だから反応が冷静なのだと小花は思った。伊織が「まぁな」とうなずく。
「俺も知ったのは最近だ。あの女が旅行から帰ってきた日、マンションの前まで男に車で送ってもらってるのを見たんだよ。別れ際にキスをしていたから、まぁそういう関係なんだろうなと思った。友達と旅行ってのも嘘だったんだろうなって」
小花はあの日の伊織の意味深な発言の意味をようやく理解した。