この結婚が間違っているとわかってる
「咲さんが倉橋さんと……」
ふたりはいったいどういう繋がりなのだろう。小花にわかるのはふたりの年齢が同じことと、倉橋と拓海の雰囲気がとてもよく似ているということだ。
「拓海くんはこのこと知ってるのかな」
「さぁな。でも、兄貴に言えば即離婚だろうな」
「だよね」
小花は沈んだ声で答えると、ぴったりと体を寄せ合って歩く咲と倉橋を見つめた。そして、拓海に伝えるべきなのだろうかと考える。
(きっと拓海くん傷付くよね)
咲とはまだ数回しか顔を合わせたことはないけれど不倫をするような女性には見えない。拓海もきっと咲が不貞行為を働いているとは思ってもいないだろう。
咲が拓海を裏切っていたという事実が小花は許せない。爪が食い込むほど強く手を握りしめていた。
「そんなこわい顔すんなよ」
伊織の指が小花の頭をツンと突いた。そのまま頭に手が乗っかり髪の毛をくしゃっと撫でられる。
「お前にとってはチャンスだろ」
「チャンス?」
小花は、咲と倉橋に向けていた視線を伊織に移した。軽く笑顔を作った伊織が小花の頭に乗せていた手をゆっくりと離す。
「あの女から兄貴を奪うなら今だぞ」
小花は再び咲と倉橋を見た。
たしかにこれはチャンスだ。拓海に咲の不倫を伝えればふたりの仲はこじれて離婚という選択をする可能性は高い。
咲と別れれば拓海は誰のものでもなくなる。今度こそ小花が拓海を手に入れられるかもしれない。