この結婚が間違っているとわかってる
「でも、私は伊織と結婚しているから……」
だから今の小花は拓海に好きだとは伝えられない。弟の妻に告白をされたら、それこそ拓海を困惑させるだろう。
「俺とは別れればいいだろ。つか、もともとこの結婚はそういう約束だったんだから」
「約束……」
小花は拓海と一緒に婚姻届を提出した日を思い出す。
『もしも小花に兄貴以外に好きな人ができて、そいつとくっつきたいって思う日が来たら俺とは別れればいい。それか……まぁこの可能性は低いだろうけど、兄貴と想いが通じ合うこともあるかもしれないしな。そしたら俺とは離婚すればいい』
確かに伊織はそう言っていた。
(でも、それでいいのかな)
伊織とは恋愛の末に結ばれたわけではないが、だからといって簡単に離婚をしてもいいのだろうか。そんな小花の迷いに気付いたのだろう伊織がゆっくりと口を開く。
「そもそもさ、小花は既婚者になった兄貴とずっと一緒にいるために俺と結婚したんだろ。だったら兄貴たちが離婚したら俺と結婚してる意味なんてもうねぇじゃん」
それもその通りだと小花は思う。
伊織からこの結婚を提案されたとき、初めは躊躇した。こんな結婚をしてもいいのだろうかと。それでも、拓海のことが好きでこの先もずっと一緒にいたいと思ったから小花は伊織と結婚をしたのだ。
叶わないはずだった恋が、もしかしたら叶うかもしれない。