この結婚が間違っているとわかってる

倉橋との関係を父親に否定された咲は無理やりお見合いをセッティングされた。その相手が拓海だった。

咲はまったく乗り気ではなかったけれど、拓海の雰囲気が倉橋と似ていると気付いて心が変わる。倉橋と結ばれることはもうないのだと諦めて、倉橋の面影がある拓海との結婚を決めたのだ。

拓海はそのすべてを咲の口から聞いて知っていたものの、ふたりは離婚を選ばなかった。

「どうして別れなかったんだよ」

妻が不倫をしているとわかれば普通なら離婚という選択をするはず。でも拓海はすべてを知った上で咲との結婚生活を続けていた。伊織にはそれが理解できなかった。

「咲さんに離婚はしないでほしいと頼まれた。あの男とはもう会わないと約束をしたんだ。俺はそれを信じた。でも関係は切れていなくてずっと続いていた。知っていたけど、俺も俺で咲さんと離婚できない理由があったから別れられなかった」
「理由って?」
「俺は咲さんと結婚したから出世ができた。離婚したら今のポジションから降ろされると思ったし、悪い噂の的になると思ってこわかった」

拓海の沈んだ表情を見て彼も思い悩んでいたのだろうと伊織は思った。

「でも、悪いのは不倫してるあの女だろ」
「それでも真実に目を瞑っていた方が俺にとっては楽だったんだ」
「楽って……」

伊織は思わず呆れてしまうが納得もできた。
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