この結婚が間違っているとわかってる
それにしても、泣いている女性にハンカチを渡す行為は紳士的なのに、みっともないからという一言が余計だ。
そういうところがこの男を好きになれない理由だと小花が改めて思っていると、隣から溜息が落ちてくる。
『お前さ、まだ兄貴が好きなの? 言っとくけど、ガキの頃からまったく相手にされてないからな』
『そんなこと伊織に言われなくても知ってるよ』
小花はハンカチをぎゅっと握りしめた。
四つ年上の拓海は小花の初恋相手だ。先に地元を離れて上京した拓海を追いかけて自分も東京行きを決めてしまったくらい想いは強い。
小花の拓海への片想いは物心ついたときからすでに始まっている。けれど、幼馴染という近すぎる関係のせいで想いを伝えられないまま、拓海は小花ではない別の女性と結ばれてしまった。
妻である咲は拓海の会社の主要取引先の社長の娘だと聞いている。社長が拓海を気に入り、娘の咲を紹介したのをきっかけに交際が始まり、ふたりはあっという間に結婚をした。
『絶対に私の方が拓海くんを知っているし大好きなのに……』
突然現れた女性に拓海を取られた小花としては悔しくて悲しい。
せっかくハンカチで涙を拭ったのに再び涙腺が緩くなる。