この結婚が間違っているとわかってる

『んなこと言ってもお前がビビッてなんの行動も起こさなかったのが悪いんだろ。好きなら好きって言えばよかったんじゃねぇの』

伊織は結婚パーティー用のオシャレなスーツのポケットに両手を突っ込み、気だるげに壁に背中を預けながら呆れたように呟いた。

傷心の小花にも相変わらず容赦がない。ハンカチは貸してくれても慰める気はないのだろう。

伊織は子供の頃から小花が拓海に想いを寄せていることを知っている。話してはいないのに、わかりやすい小花の態度で気付いたそうだ。

それならもしかして拓海にも自分の気持ちを知られているのでは? 当時、小花は本気で焦ったけれど、その心配はいらなかった。

拓海が鈍感なのか、年下の幼馴染の小花をそういう対象として見ていないのか。たぶん後者だと思うが、拓海には小花の気持ちは少しも伝わっていなかった。

不毛な恋に落ち込みながら、小花は会場中心で友人たちに囲まれて笑顔を浮かべる拓海と咲に羨ましげな視線を送る。

『告白する勇気があるならもうとっくに伝えてるよ』

拓海が小花を恋愛対象として見ていないことはずっと前から気付いていた。想いを伝えたところで玉砕するのが目に見えているのに告白なんてできるはずない。
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