岩泉誠太郎の恋
岩泉誠太郎
アラビア語が好きな彼女
大学を卒業して4年。遂にこの日がやってきた。長かった。本当に長かった。
何がどうしてこうなったのか、あまりにも遠回りをしてしまった自覚はある。色々手を尽くして協力してくれた啓介や宗次郎さんには、本当に申し訳なかったとしか言いようがない。
8年前、初めて彼女に会った日。
正直、彼女に特別な何かを感じたかと言えば嘘になる。啓介がノートを持ち去った後、彼女はアラビア語のテキストを凝視していた。なんの気なしに声をかけると、彼女はアラビア語の面白さを語り始めた。すぐに啓介が戻ってきたから、それは一瞬のことだったが、彼女が本気でアラビア語を面白いと感じているのが十分に伝わった。
変わった子だな、という印象を持った。
その後、彼女が俺のことをよく眺めていることに気がついた。それは彼女に限ったことではないので特に気にはならなかったが、あの日以降、啓介は彼女にちょくちょく話しかけ、勉強を教えてもらっているようだった。
「お前があのタイプに声かけるの珍しいな?」
「ん?椿ちゃんのこと?アラビア語を教えてもらってるんだ。凄くいい子だよ。気になる?」
「いや、別に」
「なら、深みにはまる前に目を覚まさせてあげようかな。いい子だし傷つくのはかわいそう」
それからしばらくして、彼女の目線を感じなくなった。彼女の目が覚めたということか。啓介のことだから、きっとうまいこと言って彼女は傷つかずに済んだのだろう。
彼女がこちらを見ないのでそれとなく彼女の方を見ると、勉強に集中しているのか、見られていることに全く気づいていないようだった。
そういえば、彼女はアラビア語が好きでたまらない、ちょっと変わった子だった。よくよく見れば、いかにも楽しそうに授業を受けているのだから、本当に変わってる。
どうせ3年かけるなら一番やっかいなアラビア語、という選び方をした俺とは、感覚がまるで違うらしい。同じ3年でも、あんなに楽しそうなら、彼女の方が得をしていて、少し羨ましいと感じた。
「誠太郎、やっぱ椿ちゃんのこと、気になってる?」
「え?」
「最近、授業中によく椿ちゃんのこと見てるよね?」
そんなに見ていたつもりはないが、多少の自覚はあった。
「いや、彼女がアラビア語の授業を楽しそうに受けてるから、、」
気になってるのか?
「椿ちゃん、びっくりするくらいいい子なんだよ。彼女が誠太郎を見なくなったのは、嫌いになったからじゃなくて誠太郎に嫌な思いをさせない為なんだって」
彼女が俺を嫌いになったわけじゃない。そのことを俺は嬉しいと感じていた。
何がどうしてこうなったのか、あまりにも遠回りをしてしまった自覚はある。色々手を尽くして協力してくれた啓介や宗次郎さんには、本当に申し訳なかったとしか言いようがない。
8年前、初めて彼女に会った日。
正直、彼女に特別な何かを感じたかと言えば嘘になる。啓介がノートを持ち去った後、彼女はアラビア語のテキストを凝視していた。なんの気なしに声をかけると、彼女はアラビア語の面白さを語り始めた。すぐに啓介が戻ってきたから、それは一瞬のことだったが、彼女が本気でアラビア語を面白いと感じているのが十分に伝わった。
変わった子だな、という印象を持った。
その後、彼女が俺のことをよく眺めていることに気がついた。それは彼女に限ったことではないので特に気にはならなかったが、あの日以降、啓介は彼女にちょくちょく話しかけ、勉強を教えてもらっているようだった。
「お前があのタイプに声かけるの珍しいな?」
「ん?椿ちゃんのこと?アラビア語を教えてもらってるんだ。凄くいい子だよ。気になる?」
「いや、別に」
「なら、深みにはまる前に目を覚まさせてあげようかな。いい子だし傷つくのはかわいそう」
それからしばらくして、彼女の目線を感じなくなった。彼女の目が覚めたということか。啓介のことだから、きっとうまいこと言って彼女は傷つかずに済んだのだろう。
彼女がこちらを見ないのでそれとなく彼女の方を見ると、勉強に集中しているのか、見られていることに全く気づいていないようだった。
そういえば、彼女はアラビア語が好きでたまらない、ちょっと変わった子だった。よくよく見れば、いかにも楽しそうに授業を受けているのだから、本当に変わってる。
どうせ3年かけるなら一番やっかいなアラビア語、という選び方をした俺とは、感覚がまるで違うらしい。同じ3年でも、あんなに楽しそうなら、彼女の方が得をしていて、少し羨ましいと感じた。
「誠太郎、やっぱ椿ちゃんのこと、気になってる?」
「え?」
「最近、授業中によく椿ちゃんのこと見てるよね?」
そんなに見ていたつもりはないが、多少の自覚はあった。
「いや、彼女がアラビア語の授業を楽しそうに受けてるから、、」
気になってるのか?
「椿ちゃん、びっくりするくらいいい子なんだよ。彼女が誠太郎を見なくなったのは、嫌いになったからじゃなくて誠太郎に嫌な思いをさせない為なんだって」
彼女が俺を嫌いになったわけじゃない。そのことを俺は嬉しいと感じていた。