岩泉誠太郎の恋

うぶな彼女がかわいい

「多分椿ちゃんは誠太郎のことが好きなんだけど、俺が誠太郎のこと諦めさせるのに余計なこと言ったせいで、気持ちにストップかけようとしてるみたいでさ」

「余計なこと?」

「トラブルを避ける為に女の子達を平等に受け入れて、何も与えずに効率良く遠ざけてるって話したんだよ。遠回しに誠太郎は誰も好きにならないから好きになっても無駄だよって言ったんだ」

「あー、、本当のことだからしょうがないな」

「でも椿ちゃんはそんな誠太郎を気の毒に感じたみたいでさ。幸せになって欲しいと心から思うって。誠太郎が誰かを好きになって幸せを感じられたらいいって思ったんじゃないかな?」

「誰かを好きになることが幸せなのか?」

「うーん。それは俺もよくわからないけど、多分椿ちゃんは誠太郎のことが好きな状態を幸せだと感じてるんじゃない?」

「意味がわからないな、、」

「本当意味わからん。でも、ちょっとかわいいよね、乙女って感じ?」

それ以降、俺は授業中に彼女を盗み見ることをやめられなくなっていた。啓介がそんな俺を面白そうに見ているのは知っていたが、気になるのだからしょうがない。

ある日授業で彼女と話す機会があった。どうやら彼女は酷く照れてるようで、まともに俺の顔を見ようともしなかったが、そんなうぶな反応が新鮮でかわいいと思った。

思えば、俺の周りにいる子達はみんな我が物顔で俺にまとわりついてきて、あんなかわいい反応をされたことなど一度もなかったのだ。

「虚しいな、、」

「え?どうしたの?」

構内にあるカフェで啓介の勉強会が終わるのを待っていたら、いつの間にか女の子が3人同席していた。1人は名前すら知らないが、それでもきっと俺の彼女なのだろう。目をキラキラさせながら俺の返事を待っている。残念ながらかわいいとは少しも思えなかった。

「もう終わりにしよう」

「え?何?どういうこと?」

「君達の恋人でいるのを終わりにしたいんだ」

「え?どうして?なんで急に、、」

「他の子達にも伝えて?もう俺に近づかないで欲しいんだ」

「そんな!酷い!なんでそんなこと言うの?誰か好きな人ができたの!?そんなの約束が違うじゃない!」

『俺は誰も好きにならない。それでいいなら恋人になるよ』

彼女達にはそう伝えていた。恋人という地位をあげたら、それで満足する子達がたくさんいたから。それ以上を望めば、勝手に怒ったり失望したりして俺の前からいなくなってくれるから。この恋人システムは、かつてない程俺の周辺を平和に保ってくれた。

「本当ごめん。でも虚しくなったんだ」

しばらくは嵐が続くだろう。面倒だけど、もうこんなことは続けられないと思ってしまったのだから、どうしようもない。
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