岩泉誠太郎の恋

父との話し合い

「お前から話があるなんて随分珍しいな。嫌な話じゃなければいいが」

父さんとの関係は決して悪くはない。かなり早い段階で反抗は無駄だと理解し、従順であり続けたこともあって、むしろ良過ぎるくらいだと思う。

だが今回は、反抗とまではいかずとも、父さんの意に添う話ではない。そんなに簡単な話にはならないだろう。

「好きな人ができました」

父さんが虚をつかれたような顔をする。まずまずの入りだ、悪くない。

「ほう。それで?」

「確実に彼女を手に入れたいと考えています。ですが、大きく道を外すことは本意ではないので、父さんに話を通すのが筋だと思いました。そして可能なら、力添えを願いたいのです」

「ん?ちょっと待て。手に入れたいとはどういうことだ?付き合ってるわけではないのか?」

「お付き合いはしていません。諸事情があって現在はほぼ接点もない状態です」

「以前にはあったのか?その、接点が、、」

「いえ、これといって」

「ちょっとよくわからない、、接点もないのに好きとはどういうことだ?勘違いなのでは?」

「それはないと断言します。この3年、彼女のことを知る度、想いが強まるのを感じました。少ない接点が消えかけ、絶対に諦められないと思い、今に至ります」

父さんが苦悶の表情を浮かべ、そのまま話を続けた。

「整理させてくれ。まず、彼女とはどういう関係で、どうやって彼女のことを知ったんだ?」

「3年間、週に3回あるアラビア語のクラスが唯一の接点で、毎回彼女の様子を伺っていました」

「様子を伺う、、?」

「、、盗み見してました。そして、坂井が彼女と親しくしているので、そこから情報を引き出しています」

「なるほど。それでもうすぐアラビア語のクラスが終わるってことか。なんでそんなけったいなことになってるんだ?」

「原因はいくつかあります。でも全てが、これまで女性とちゃんと向き合わず、不誠実な対応をしてきた結果と繋がっています。安易な損切りはいい結果を招かないと学びました」

憐れみを帯びた視線が突き刺さる。

「それで?どうするつもりなんだ?」

「最重要は彼女を手に入れること。同列で彼女に危害が及ばぬこと。大学ではその二点を同時に叶えることができず、現状に甘んじることとなりました。この二点を解決する最も有効な手段は結婚です。結婚の許可を頂ければ、多少の力添えを願うことにはなりますが、一気にかたをつけたいと思っています」

「力添えとは?」

「彼女を三角エネルギーに就職させ、私の配属も同様にしてもらいたいのです。もちろんその後の進退は、父さんの意に添うつもりです」
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